あなたと慰め ページ39
「泣いているのか?」
『泣いてな、い』
「では顔をあげるんだ」
『嫌だ』
先程からこの会話の繰り返しだ。
私は必死で涙を流さないように堪える。
めでたい婚約が決まっていたのに泣くとはなんだ。
もう二度とこんな機会は無いかもしれないんだ。
結婚できるだけありがたいと思え。
と自分に言い聞かせる。
心を落ち着かせてゆっくり顔を上げて笑顔を作る。
ビクリとあなたは反応した。
『や、やだなあ、杏寿郎くん。心配しすぎだよ。急に婚約者ができて驚いちゃっただけだから』
「なあ、」
『うれしいね、こんな私でも貰ってくれる人がいるなんて。どんな人だろ、楽しみだなあ』
「A、」
『私、結局お嫁に行っちゃうね。杏寿郎くんはどんな人をお嫁に貰うんだろ、きっと私なんかより素敵な人なんだろうね』
「A!!!!」
肩を掴まれ、大声で名前を呼ばれて唖然としてしまう。
じいっと私の目を見つめるあなた。
悲しそうで、怒っている目だ。
何故かその瞳から目を離せなかった。
「無理して笑わないでくれ」
『無理してないよ、嬉しいから』
力なく笑うと抱き寄せられた。
ぎゅうっと力強く。
『ダメだよ、私。嫁入り前だから』
「駄目じゃない。まだ嫁入ってない」
『なにその理屈、』
ぎゅうぎゅうと顔を肩に押し付けられる。
暖かい。
きっとこれも最後になるだろう。
私は涙が出ないように目を瞑る。
「行かないでくれ」
弱々しく、震えた声。
初めて聞いたあなたの声だ。
「頼む、A」
鼻の奥がつんとする。
なんで、こんなに私に行かないで欲しいのだろうか。
あなたはどうして、
『もう決まっちゃってるから私に頼んでも無理だよ』
ごめんね、といってぽんぽんと大きな背中を撫でる。
行きたくない。
私だって行きたくない。
あなたに好きだと伝えていないのに。
ぐすぐすっと鼻をすする音が聞こえる。
泣いているのか。
可愛い奴め。
つい、微笑んでしまう。
しかし先程とは完全に逆ではないか?
慰めに来てくれたんじゃないのか。
なんで私が慰めているんだ。
急にガバッと顔を上げるあなた。
「俺がその結婚、辞めさせる!」
『杏寿郎くんがする必要ないでしょ』
「嫌だとさっきAも言っていたじゃないか!」
『え、聞こえてたの』
「君の声は聞き逃さない」
さらりと恥ずかしいことを言う杏寿郎くん。
どうしてだ、
疑問に思うだけだったがこの愛おしい幼なじみを慰めた。
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ねむこ(プロフ) - 柑橘蛍さん» 柑橘蛍さんコメントありがとうございます〜!わかります.....推しは尊いですよね....読んでくださってありがとうございますー! (2021年2月12日 12時) (レス) id: 81a8bcf75d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘蛍(プロフ) - 今日も今日とて推しが尊い…! (2021年2月10日 0時) (レス) id: c6603d0c65 (このIDを非表示/違反報告)
ねむこ(プロフ) - 晶子さん» はじめまして!コメントありがとうございますー!記憶したい!?!そこまでですか〜!?感謝です... (2021年1月17日 0時) (レス) id: fdabd54cfd (このIDを非表示/違反報告)
晶子 - 初めまして!何ですかこの神作品は!?最高です( ; ; )何度も読み返してしまいます。。!!もう記憶してしまいたいくらい!! (2021年1月15日 20時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
ねむこ(プロフ) - 沙希さん» こちらこそありがとうございます...!!!!!!長編なので大変でしょうけど最後までよろしくお願いします...! (2021年1月10日 13時) (レス) id: fdabd54cfd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむこ | 作成日時:2020年10月28日 8時