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「結婚しよう」と言われたときは、素直に自分は幸せ者だなあと思った。
大学時代からつき合って早５年。
時々喧嘩もしたけれど、穏やかで温かい時間を過ごしてきた。
「これから先の人生も、わたしを必要としてくれているんだ」って思うと、嬉しかった。
なのに……
どうしてかな。
ずっと心の奥のほうで、なにか引っかかっているんだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『んー…』
目覚めてすぐ、ベッドの上でひとつ伸びをした。
窓から柔らかい朝の光が差し込む。
その光に照らされて、左手の薬指の石がキラキラ輝いている。
『そろそろ準備、しようかな…』
寝室のクローゼットから、ノーカラーシャツとデニムを引っ張り出してくる。
着替えてテレビをつけた。
「今日はあたたかくて過ごしやすい一日になるでしょう。」とお姉さんが笑顔で伝えている。
少しすると、部屋の中に淹れたてのコーヒーの香りが充満する。
ソファに座り、テレビを観ながら焼きたてのトーストをひと齧り。
カリッと良い音がした。
朝食を食べ終え、身支度を始める。
薄く化粧をして、長い髪を耳の高さで結んだ。
『あ、そろそろ出なきゃ』
玄関を出る前に、左手の薬指の指輪をそっと外してケースにしまった。
『いってきます。』
誰もいない空間に、自分の声だけが響いた。
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作者名：雪 | 作成日時：2022年11月24日 4時
