27.アマオト。 ページ27
「夕立ですね」
私が言うと、窓の方を向いたまま潤さんが「すぐ止むだろ」と呟いた。
決して新しくない朝霧ビルは、防音設備とかしっかりしてないから色んな音が結構響く。
ゴー...と低く聴こえる雨の音を聴きながら、私達はご飯を食べた。
「潤さん」
「ん?」
「私と同じ名前の人も一緒に暮らしてたんですよね」
私の声が雨音に消されたなら、それでも良いと思う。
聞こえなかったって言われたら、それでも良い。
「それも翔さんから?」
だけど、声は届いてた。
「あ、でも、Aって名前の同居人が居たんだよって事しか聞いてないですけどね」
彼はずーっと窓の方を見てる。
そしてカツ丼の最後の一口を食べると立ち上がり、管理人室にもある小さなシンクで器を洗った。
私も天丼を食べ切って、その隣に並ぶ。
洗ってくれようとする潤さんに「自分で洗います」と言うと、口の端を上げた彼はソファに戻って行った。
「.....潤さんが私を『みぞれ』って呼ぶのは...その人に理由があったりするんですか?」
器を洗いながら、ちょっと吐きそうな緊張を抑えつつ訊く。
そんなに緊張するくらいなら訊かなきゃ良いのに、恋する乙女の情報収集は怪我をするかもしれなくたって止められないんだ。
「『A』って名前、あんまり口に出したくないのかな...と思って...」
外からは雨の音。
手元からは水道の音。
器の泡を流して蛇口を閉めると、少しだけ雑音が減った。
自分が怪我する以前にこんな事を訊いてしまったらもう喋って貰えなくなるかもしれない...と思ったら、突然怖くなった。
だけど、言ってしまった。取り消す事は出来ない。
ソファに座る何も言わない潤さんの後頭部を見ながら、後悔に似た気持ちに泣きそうになる。
「お前、結構勘が鋭いんだな」
少し、笑いを含んだ声だった。
振り向かない潤さんの肩が、静かに上下した。
「...ごめんなさい」
「謝んなくて良い」
「.....」
「確かに積極的に思い出したい名前では無い」
「.....」
「でも関係無いお前には、申し訳ない話だよな。ごめん」
振り返った潤さんは、やっぱり悲しそうに微笑む。
潤さんに何かあったのか分からないけど、私の名前を聴く度にそんな悲しい顔をして欲しくない。
いても立ってもいられず、走り寄り潤さんの隣に座って
「...だったら私が!『A』の印象を変えます!」
そう言うと
「100年早ぇよ」
彼は、私の頭をポンと軽く叩いた。
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橘花(プロフ) - みぞれちゃんいいこ。。パラ潤もやっぱり彼らしくて、すごく素敵なお話でした!淡く苦いような甘いような、夏をすごく感じるお話で。随所で彼女のこととみぞれちゃんのことを考える潤くんが見られて切なかったですね。。10年がどんどん短くなりますように! (2018年10月2日 23時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
Minty(プロフ) - 今頃ごめんだけどやっぱり伝えたくて。私の中のパラ潤はまだまだ彼女を忘れられてなくて、だからみぞれちゃんと話した後は彼女のことを思い出してたんだろうなとか勝手に想像して切なくなってた。そういう裏側の光景まで読めるお話だった。書いてくれてありがとう! (2018年10月1日 23時) (レス) id: 38bee720d5 (このIDを非表示/違反報告)
ま( *^◇^)る(プロフ) - やっと読めた〜!遅くなっちゃった。パラ潤にまた会えて幸せだよーありがと。 (2018年9月25日 19時) (レス) id: 43b5111d45 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - お疲れ様です。っていうの遅い位かな~ 本編ですが、甘さは無いかもしれませんがキュンが、これでもかって位詰め込まれてて凄く良かったです♪みぞれちゃんも未来に期待ができそうだし…reiさんのお話読めて楽しかった♪ (2018年9月25日 19時) (レス) id: aab6d8833f (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - reiさんのお話はみんな好きですが、このシリーズは特にお気に入りです!キャラがみんないい! まるでその世界にまぎれこんだ気持ちになります ありがとうございました! (2018年9月25日 18時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:rei | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時:2018年8月11日 13時