シャングリラエッジ【ars J.M】

14.空気を読む。 ページ14

それがあまり、良い表情には見えなくて。
何だか居心地が悪くなる。

「モデルなんて、なれたとしても旬くらいだろ」

でも松本さんがすぐに少し笑ったから、それだけでもっとここに居たくなる。


「小栗さん、本当にモデルさんだと思ってました」
「やった！ありがと」

生田さんが「俺はー？」って言うから「生田さんもイケメンですね」と応えると「お世辞っぽい」と残念そうな顔をされた。
お世辞では無いんだけど。
『黙ってたら超イケメン』って心の底で思ってたのが滲み出てしまったか。申し訳ない。


「ねぇ、Aちゃん。俺のこと『旬』で良いから」
「え？」
「『小栗さん』って普段あんま呼ばれないから、ちょっとモゾモゾすんの」

小栗さんがそう言って、少し困ったような笑い方をする。
そんな顔されたら、もう『小栗さん』って呼べない。

「じゃあ...旬さんで...」
「俺も『斗真』で良いから！生田なんて呼ばれて無さ過ぎて自分が生田だったって事、忘れてた」

そんな馬鹿な。

「では、斗真さんで...」
「潤も『潤』で良いよね？」
「えっ！？」

斗真さんがパソコンで作業してる松本さんに訊いた。
彼は「んー？」と画面を見たまま。
...小娘に名前呼びされるなんて、松本さんは嫌なんじゃないだろうか...


「別に呼び方なんて何でも良いけど」

本当に「何でも良い」と思ってる感じの言い方に、ホッとしたし「潤さんって呼んで良いんだ！」ってゆー喜び。
私、変な顔になってそう。


「ってか、みぞれはずっとここに居て良いわけ？」
「...あっ！戻らなきゃ！」

そうだ、私は管理人だった。
管理人室に戻らなきゃ...残念...。


「潤、さっきも思ったんだけど『みぞれ』って何？」
「あー、コイツみぞれのかき氷ばっかり食べてるから」
「何でそんな事知ってんの？」
「喫茶店でよく会う」

斗真さんが「ふーん」って鼻から抜けるような相槌を打って

「Aちゃん、せっかく可愛い名前なのに変なあだ名付けられちゃ.....あ」

と、私を見てた視線を潤さんに向けた。


「潤、まさか名前...」
「おい、斗真」

旬さんが斗真さんの言葉を、強めの口調で止めた。
潤さんは、全然こっちを見ていない。


「あ...『みぞれちゃん』ってあだ名も可愛いよね！」

取り繕うような斗真さんに、私は「可愛いならオールオッケーです！」と笑って返す。


一瞬重くなった空気を感じない訳が無い。
空気を読んで笑っても、胸はギリギリと軋んだ。

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