#B【向日葵】 ページ8
五樹side
五 「返事、してあげようか?」
彼女の瞳が、静かに揺れる。
僕の真意を探ろうとしているのかもしれない。
・・・だけど、無駄だ。
僕だって、なぜ自分がこんなことを口にしているのか、分かっていない。
夜 「・・・なんで、そんなこと言うんですか。返事なら、前聞きました。私のこと、よく知らないからって」
それは記憶にある。
なのに・・・何を僕はこんなにも焦っているんだ?
夜 「もう・・・五樹さんがよく分からないです・・・」
僕にも分からない。
案外、自分のことが一番分かっていないのは自分だったりするのだろうか。
五 「・・・聞きたくないの?」
夜 「聞いたら・・・終わっちゃいそうで・・・」
何が?とは尋ねなかった。
胸がざわついた。
冷たい風が吹き抜けていく。
五 「終わらないよ」
だって、僕らは・・・
五 「始まってすらいなかったんだから」
それなのに、終わるものなんてない。
失うものなんてない・・・はずだ。
夜 「・・・っ五樹さんは、何も分かってません!」
多分、彼女の言う通りなんだろう。
僕は結局、何も分かっていない。
それでも、逃げるわけにはいかない。
五 「聞いてくれる、あずみちゃん」
夜 「・・・嫌です」
五 「じゃあ、耳を塞いでればいい」
細い指はぴくりとも動かない。
五 「ねえ、あずみちゃん」
五 「・・・好きだよ」
何も反応は返ってこないけど、気にせず続けた。
五 「結婚を前提に、付き合ってほしい。高校卒業まではカフェぐらいしかいけないけど・・・って、あずみちゃん?」
大きな瞳にたくさんの涙を浮かべて、彼女は笑った。
使い古された表現だけれど、花が咲くようだと思った。
向日葵、だった。
夜に咲く、一途な向日葵。
太陽が沈んでも、沈んだ方をずっと見ている。
『あなただけを、見ている』
夜 「う、れしい・・・五樹さん・・・」
涙が地面に染みを作り、僕は小さい肩を抱き寄せる。
五 「・・・ごめんね。今、気づいたんだ」
いや、正確には、気付かないフリをしていた想いに、気づいたんだ。
赤く染まった頬に手を伸ばすと、ぴくっと肩が揺れた。
それが、可愛くて。
五 「・・・好きだよ、あずみちゃん」
そうして僕は、静かに唇を重ねる。
柔らかいこの唇も、頬を伝う涙も僕のものだ、と印をつけるように。
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