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『こころ』 1 ページ10

最近まで着ていたセーターも、長袖のセーラー服も、しばらくはタンスの中にお留守番となった。

一週間程前から急に暑くなってきて、身につけている夏服がべったりと背中に貼りつく。熱さや紫外線に弱い私には効果的面で、一昨日、熱中症で倒れたばかりだ。

登下校と体育のときにはしっかり日焼け止めを塗りたくって、日焼けを防ぐ。さすがに本には日焼け止めは塗れないので、カーテンをぴっちり閉めて日焼けを防ぐ。

もう七月。蝉の鳴く声が窓を閉めても聞こえてくる。涼しい図書室にいるのに、蝉の声だけで熱く感じてくるから、少しだけ、蝉が恨めしい。

閉めたカーテンを少し手前に引っ張って、窓とカーテンの間に顔だけ突き出して、どこにいるかもわからない蝉を睨んでいると、後ろで静かに扉が開く音がした。

「こんにちは」

黒子先生は、夏を感じさせない涼しげな眼もとを細めて笑った。先生といると涼しい気分になれそう。

いや、夏だと感じているからこそ、涼しげだ、とより一層感じられるのか。

「こんにちは、先生。最近急に暑くなってきましたね」

「そうですね。熱中症には気をつけって下さい」

ごめんなさい。それ、もう、数日前になっちゃってます。

先生は、たくさんある本棚の間に入っていく。私も先生の後をついて行く。

先生が立ち止った場所で、私も立ち止る。私の頭より三段程上の段の本を二冊、抜き取る。どちらも同じ本だった。

先生は男性としては小柄なほうだと思う。でも、私よりはおそらく十センチ以上は高い。先生が本を抜き取った段には、私は脚立を使わないと届かない。

「今日は、この本を薦めようと思って」

一冊を私に渡す。

――――『こころ』夏目漱石著――――

「これ、教科書にも一部載ってました。

確か、まだ学生だった『先生』とその友人のKが、下宿に住むお嬢さんに恋をして、Kの恋心を打ち明けられた先生は奥さんにお嬢さんとの結婚を取り付けて、結婚することになったけれど、それを知ったKは遺書を残してじさつしてしまう。

お嬢さんと結婚した後も、奥さんの顔を見るとKのことを思い出してしまい、罪悪感に苦しめられた後、明治天皇と乃儀希助の死をきっかけに、主人公である『私』に遺書を残してじさつしてしまう。

という話でしたよね」

「はい。教科書に載っていたのは第三章のみですので、ぜひ、全部通して読んでみてください」

僕も読みなおします。と笑って、先生は席についた。

私の座って、一緒に読み始めた。

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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時

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