『こころ』 3 ページ12
いつもは嫌いな月曜日。
なのに私はいつもより少しだけ気分がいい。
配られたプリントに書かれたタイトルと人名。
それは二十程あるけれど、その中で一番最初に私の目を捕えて離さないのは、真ん中に書かれた一行。
ゆっくりと、指でなぞってみる。
何だろう、すごく気分がいい。
「その中から選んでも良いし、自分の好きなやつで書いても良いぞー」
先生のやる気のない声と、みんなの不満とブーイングに囲まれているのに。
『こころ』が、課題図書。
なぜかそれだけで、気持ちが浮かれて、周りの事も気にならない。
夏休みの嫌われる二大宿題の一つ、読書感想文。
それを苦に思わない自分は全国単位で考えても少数派だろう。
もともと文章を書くのは嫌いじゃないし、作家になろうと思える程の技量は無いけれど、小・中学校の卒業文集なんかも、周りの子よりも上手く書けているんじゃないかと、我ながら思うレベル。
先生やお母さんにもよく褒められた。
でも、自分の中で唯一得意じゃないかな、と思える事だけど、実は表彰されることにいまだになれないし、胸を張っているなんて出来ない。苦手である。
読書感想文や作文コンテストがあると、毎回何かの賞は貰える。その度に、壇上で校長先生や教頭先生から賞状をもらうけど、その貰う瞬間、いや、名前を呼ばれた瞬間に、視線が自分に集まるのが酷くなれなくて、おかしなことをしているわけではないのに恥ずかしくて、逃げ出したくなる。
贅沢な悩みかもしれない。
笹草さんは文才があって羨ましいね。と言われたのは一度ではない。けれど、それは私のこころに刺さって抜けなくて、つららみたいに冷たくて鋭くて、溶けるのを待つしかなかった。抜く程の勇気が私には無かった。ましてや、跳ね返すなんて、出来っこない。
急に、憂鬱になってきた。
ここに、夏目漱石や、太宰治や、森鷗外のような、素晴らしい文豪達がいたら、お前のような凡人が自惚れるな、と鼻で笑ってくれるだろうか?
変なことを考えてしまった。今年も賞を取れると余裕ぶってるわけじゃないんだけれど、やっぱり、つららは痛くて冷たいなあ。
あったかい
今度、黒子先生に聞いてみようかな。いや、これもやめておこう。
この質問も、悩みも、誰にも言ったことのない、私の中の秘密みたいなもの。
誰かに言うのは怖い。
一番近いと思ってた人に理解されないのは、銀竹よりもっと痛いだろう。
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時