出会うのがもっとあとだったら、きっと君に恋をしてた。【桃×青×赤】

隙間 ページ8

「大丈夫だよ」


顔の輪郭をすっとなぞり、そう呟く。届け、というように、もう片方の手を彼の胸につけた。


「全部、忘れて」


忘れなさい。忘れてくれない？ 忘れて欲しい。自分がどういうつもりで言ったのか、その言葉が口から溢れた瞬間にわからなくなった。けど、どうでもいい。


どうすればいいのかわからないというように視線を彷徨わせる彼の先を越して、自分から唇を重ねた。びくりと呆気にとられた彼の体が動き、それと同時に唇が開く。その隙に、私は舌を入れた。


ずるい。汚い。醜い。

口の中の感触とともに、そういう感情が脳内に流れ込んでくる。

でも。

でも、こういうことはえなさんはできない。

今、彼の心の隙間を埋めることができるのは、私だけ。


……だったらせめて、思いが通じないとわかりきっているのなら、その立場を利用するしかないでしょう？



気持ちを押し付けるように、彼の胸元をぎゅっと掴む。さらっとしたシャツの感触が、少しだけ私の思考を冷静にして、でもすぐに私の汗ばんだ手によって、生地本体が熱くなった。

うろたえて受け身だった彼が、舌を入れてきた。熱い吐息がふたりの唇をかすめ、それより熱を持ったものを口内で共有する。



届いた、と思った。

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