作り物 ページ40
気づくと、コップの中の紅茶を先輩にふっかけていた。ぽたぽたと髪の毛の先から滴を垂らす先輩の、その驚いた顔を見て、さっと血の気が引いていく。
しかし先輩は一瞬のその表情のあと、作り物のような綺麗な笑顔を浮かべて、こう言った。
「ひっど」
空のコップを持った手がぶるぶると震えた。
青柳先輩が怖いからじゃない。怒りに震えているわけでもない。ただただ先輩の口が告げた事実を信じたくなくて、それを笑みを浮かべながら告げた先輩が憎らしくて、衝動的に行動を起こした。
その事実が真実だと知ったら、私は二度と彼に顔向けできなくなる。
「……青柳先輩」
「ん?」
「帰ってください」
「やだ、まだコーヒーこんなに残ってるもん」
わざとらしくコーヒーカップを傾けて嗤う先輩。
うるさい。うるさい。私はもう、あんたになんか会いたくない。
「先輩、私、あなたのこと嫌いです」
頭の中でずっとくすぶっていた感情が、すっと煙になって抜けていくようだった。青柳先輩は顔を傾けて、嘲笑うように私を見ている。
「その表情の作り方も、自覚しながら論点をずらすところも、内心怒っているのに怒らないで笑うところも、なに考えてるのかわからないところも、」
「女の子をたぶらかすところも?」
「ふざけないで!」
今度は明確に、怒りで唇がわなわなと震えた。
「私は先輩のこともう好きじゃありません。あなたがなんと言おうと、興味はありません。どんな子と付き合おうと、何股しようと、もう関係ありません。……お願いですから、」
もう会いに来ないでください。
なぜか涙でかすかすになった声で、そう言った。
先輩は冷めた目でこちらを見ている。
その時、カフェの店内に、場違いなほど心地よいベルの音が鳴った。いらっしゃいませーという若い店員さんの声とともに視界に入ってきたのは、
「昨日ぶりだね、Aちゃん」
殺気立った目で先輩を睨む、莉犬さんだった。
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紬(プロフ) - みかささん» ほんとですか?!ありがとうございます!だんだん少女漫画チックになってきてて困ってます……シリアスはどこいったんだ…… (2020年8月10日 12時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
みかさ(プロフ) - 最後のりいぬくん登場かっこよすぎます! (2020年8月10日 11時) (レス) id: d74848b20e (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - きずなさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 三分くらいコメント眺めてにやにやしてました() 夏休み中に完結できるよう頑張ります! (2020年8月2日 12時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
きずな - 凄い良かったです更新まってます。 (2020年8月2日 11時) (レス) id: 56f6207354 (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - ありがとうございます!初投稿なんでめちゃくちゃ動揺してます……面白いと言って頂けて嬉しいです! (2020年8月2日 6時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紬 | 作成日時:2020年7月30日 21時