出会うのがもっとあとだったら、きっと君に恋をしてた。【桃×青×赤】

薄っぺらいコート ページ4

はあっと白い息を吐きながら、マフラーに顔を埋める。もふっとした感触と温かさを感じた。

鍵と財布とスマホ、あとは簡単なメイク直し。本当にそれしか入っていないトートバッグを持って、薄っぺらいコートに身を包んで、私は冬の夜の冷たい空気の中を歩いていく。

行き慣れた道は、徒歩で十分程しかない。途中、お店のショーウィンドウで身嗜みをチェックして、前髪を整える。


ふとガラスの向こうに彼がうつっているような気がして、振り向いた。当たり前だけれど誰もいない。せっせと普段の女子力を取り繕おうとしている女になんか興味がないとでもいうように、みんなせかせかと歩いている。

これから帰る会社員。遊んでいく大学生。遊んできた家族連れ。楽しそうに、憂鬱そうに、思い思いの方向に歩いている。


私は彼らから目を離して、最終チェックのあとショーウィンドウから離れた。


……なにやってんだか。向こうからしてみれば私はただの欲求不満の解消の対象なのに。


ふう、と息をつくと、また白い息が漏れた。意図的に歩く足を速めて、私は彼のアパートに向かった。

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