出会うのがもっとあとだったら、きっと君に恋をしてた。【桃×青×赤】

ちぐはぐ ページ24

「なんでしって、」

『知らなかった？ 僕顔が広いんだよね。前Aがバイトしてたハンバーガー屋行って聞いてみたら、すぐ教えてくれたよ』


噂になってるっぽいから気をつけた方がいいよ、とどの口が言う台詞を飄々と放つ。元同僚の顔をぱた、ぱた、とひとりずつ思い返していくうちに、だんだん体が震えてきた。

知らない。知らない。全部知らない。

先輩にバラした同僚のことも、噂を流した同僚のことも、私の気持ちも、先輩の真意も、彼の本心も。


「切って、いいですか」

『ちょっとまってよ。紙にも書いといたでしょ？ 今度会いたいって。前よく行ってたカフェにさ、』

「会って、どうするんですか」


割り込むように放った言葉も虚しく、先輩は全く動じることなく答えた。


『だから、僕とそのお友達のどっちがいいか、もう一回考えてみれば？』

「そんなの考えなくてもわかります。もう私は先輩の言いなりじゃない」

『その人のこと好きなんだ』


電話越しに唐突に投げかけられたその声は、ぞっとするほど明るくて、背筋が凍るほど冷たかった。


「私は、」

『好きじゃないの？』


私が言いかけた言い訳の言葉を遮って、先輩が訊く。ああ、と思い出す。付き合っていた時も、時々こういう声で喋っていたことがあった。鋭くて、心の底まで見透かすような視線。いつもと違う笑み。そして、それとちぐはぐな温度を持つ手の温もり。

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