暗黙の了解 ページ21
やっぱりというか案の定というか、懐中電灯の明かりで目が冴え冴えとしている。加えてソファの隣の布団で眠っている彼の寝息を変に意識してしまうのも、安眠を妨げる要因だ。
ワンルームだからとはいえ、ちょっとは布団置く場所考えろやと悪態をつきながら、懐中電灯の明かりを消した。真っ暗闇に包まれ、時計の針のかち、かち、という音だけが静かな部屋に響いていた。
体の向きを変え、彼の方を盗み見る。規則正しい呼吸とともに、布団が上下していた。お腹から胸、首筋、というように視線をスライドさせていくと、自然と端正な顔に目が吸い寄せられる。こわごわと頰を撫でても、彼が目を覚ます気配はまるでなかった。
そっと体を起こして、ソファに腰をかける。彼を見下ろして、しばしの間思案したのち、私は彼の布団を少しだけ持ち上げた。
まだ恋人じゃない好きな人が目の前に寝ていたら、普通の人はどうするのだろう。そのまま寝る。気づかれないように秘密の口づけをする。眠れないまま、夜を明かす。
布団を持ち上げていた手が、一瞬だけ止まった。
……でも、私たちは普通じゃない。付き合ってないけどキスはするし、でも他のスキンシップはとったことがない。ハグしたり、手を繋いだり、そんなことをしたら、どこか別の一線を越えてしまいそうで。
キス以上のことはしてはいけない、そう約束にはあるけれど、本当はキス未満のこともしてはいけないのだ。ふたりの暗黙の了解の上に、その約束は成り立っている。
だったら、と私は考える。どうせちゃんと決まっている約束ではないのなら、相手に気づかれなければ破ってもいいんじゃない? まだ恋人じゃない相手に黙ってキスをするように、私も黙って彼のことを抱きしめてもいいんじゃない?
そっとソファから降りて、布団の前に膝をついた。
***
彼の体温は温かくて、私はその夜、彼に腕を回したまま眠ってしまった。
だから翌日の朝、彼が私に黙って部屋を出て行ってしまったのも、仕方のないことだ。
……約束を破ったのは、私なのだから。
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紬(プロフ) - みかささん» ほんとですか?!ありがとうございます!だんだん少女漫画チックになってきてて困ってます……シリアスはどこいったんだ…… (2020年8月10日 12時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
みかさ(プロフ) - 最後のりいぬくん登場かっこよすぎます! (2020年8月10日 11時) (レス) id: d74848b20e (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - きずなさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 三分くらいコメント眺めてにやにやしてました() 夏休み中に完結できるよう頑張ります! (2020年8月2日 12時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
きずな - 凄い良かったです更新まってます。 (2020年8月2日 11時) (レス) id: 56f6207354 (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - ありがとうございます!初投稿なんでめちゃくちゃ動揺してます……面白いと言って頂けて嬉しいです! (2020年8月2日 6時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紬 | 作成日時:2020年7月30日 21時