季節外れ ページ17
『落雷や突風の恐れがあり、気象庁は……』
テレビから流れてくる音声をぼんやりと聞き流しながら、私はソファの上で縮こまっていた。雨で一面灰色に染まった風景を画面越しに見ながら、私はひとつため息をついた。
画面越しの世界では、傘を持ったおじさんが風にあおられている。アナウンサーは、季節外れの大雨だと言っている。リポーターが黄色いレインコートを着て、マイクを握りしめて中継をしている。
『どこかの誰か』が、ちゃんとこの世界に存在している。
えなさんも。今はどこにいるのかもわからない、青柳先輩も。
「……、…………」
玄関とリビングの境にあるドアの向こうから、彼が電話をする声が聞こえてくる。なにを話しているのかは知らない。知らなくていい、と思う。
彼のドア越しのくぐもった声と、テレビから聞こえる女子アナウンサーの心地よい声を聞いている間に、私はうとうとしていたらしい。肩を揺り動かされて目を開けると、思ったより近くに彼の顔があった。
「ん……さとみくん……」
寝ぼけ眼のままそう名を呼ぶと、彼は少し目を見開いて身じろいだ。その反応に、一瞬にして目が覚める。
「ごめんっ」
ばっといつの間にかかかっていたブランケットを跳ね除け起き上がると、彼は驚いた顔を崩してくしゃっと笑った。
「いいよ」
あれ、と思った。その笑顔が、いつもと違う表情だったから。少年みたいなあどけない笑顔。辛いことを全部押し込めたような痛々しい笑顔じゃない。
ちらりと彼の手に握られたスマホが見えた。シルバーのシンプルなデザイン。あれだけ知らなくていいと思っていたのに、それが目に入った瞬間、相手は誰なのだろうと思ってしまった。
そして、その時同時に悟った。ああ、相手はえなさんだって。
「飯、どうする? さっき見たら冷蔵庫の中なにもなくてさ。出前でも頼む?」
「あ、……うん。ほんとになんもないの?」
見る? と彼。うん、と私。
キッチンに入ると、やけに綺麗なコンロや食器が目についた。
「これ、いつも自炊してる?」
「あっは、バレた?」
爽やかに笑う彼につられて、固まっていた表情筋が少しずつ緩んできた。大丈夫だ、ちゃんと笑えるって、少し安心した。
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紬(プロフ) - みかささん» ほんとですか?!ありがとうございます!だんだん少女漫画チックになってきてて困ってます……シリアスはどこいったんだ…… (2020年8月10日 12時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
みかさ(プロフ) - 最後のりいぬくん登場かっこよすぎます! (2020年8月10日 11時) (レス) id: d74848b20e (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - きずなさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 三分くらいコメント眺めてにやにやしてました() 夏休み中に完結できるよう頑張ります! (2020年8月2日 12時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
きずな - 凄い良かったです更新まってます。 (2020年8月2日 11時) (レス) id: 56f6207354 (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - ありがとうございます!初投稿なんでめちゃくちゃ動揺してます……面白いと言って頂けて嬉しいです! (2020年8月2日 6時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紬 | 作成日時:2020年7月30日 21時