出会うのがもっとあとだったら、きっと君に恋をしてた。【桃×青×赤】

半熟卵 ページ13

「じゃあごめん、先行くね」と言って、春香は結局男の人の正体を明かさないまま行ってしまった。まあいいか、あとで問い詰めようと軽く考えながら、口元を拭っていたおしぼりを置き、また食事を再開する。と、春香が駆け戻ってきた。


どうしたの？ と訊く前に、春香が答えた。


「言いたいことがあったの、忘れてた」

「うん」


やっぱり忘れてたのか、おっちょこちょいだなあと思いながら食事の片手間に聞いていたからか、次の瞬間に言われた言葉が意味することをすぐに理解できなかった。



「青柳先輩が、Aのこと探してる」



『青柳先輩』という響きに、え、と小さな声が漏れた。その単語の意味するところを理解するにつれ、ふと懐かしさがこみ上げてきて、私の心が温かいものでいっぱいになる。

しかしずっとそうしてもいられず、時間の経過とともに自然と文章全体を頭が追っていった。そしてそれの意味をまた、キャパシティの小さな頭で噛み砕く。冷たいものと温かいものが同時に流れ込んできたような感覚に襲われ、私は風邪を引いた時のような悪寒を感じた。


青柳先輩が、私のことを探している。


呆然とする私を、春香が心配そうな顔で覗き込んだ。


「ねえA、大丈夫なの？ ちゃんと、別れたんだよね」


確認するように、私に問う。呼吸が苦しくなるくらいに速く打つ鼓動を感じながら、うん、とぎこちなく首を振った。

どんぶりの中の半熟卵が、れんげによってぐちゃりと潰れた。
それが正しい答えなのか、わからなかった。

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