コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ34)

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【お心配り2】ページ34

「何の話したんだよ」

「……え？」

あれ？と頭の中に疑問を表すマークが浮かんでくる。何かひっかかりを覚えたけれど、それは「変なこと言われてねぇ？」と畳みかけてくる竜胆さんによってすぐに頭の隅に追いやられた。

「お兄さんに聞いてないんですか？」

「聞いてねぇ」

てっきり話していると思っていたのに、お兄さんはどうやら竜胆さんに何も言っていないみたいだ。「竜胆さんが息の根を止めようとしてくるので、できるだけ早く帰りたいです」なんて口が裂けても言えない。

「いつ頃帰れるのかって話を……」

「は？」

頭に置かれていた手が離れていって、代わりに壊れ物を触るような優しい手付きで両頬を包まれる。じっ、と名前と同じ色の瞳が真っ直ぐにこちらを射抜いていた。

「帰りてぇの？」

「私生活もあるのでできるだけ早く……」

「生活、考えねえでいいっつっただろ」

そういうわけにはいかない。私生活だって理由だけれど、一時的とは言えお世話になりっぱなしなのに大したものを返せないのは申し訳ない。外に出た時にお礼したくても、竜胆さんと私じゃカンストとランク1くらい生活のレベルが違う。そして、私はまだ死にたくない。

竜胆さんの言葉に、なんと返していいか困って逸した視線。そうすることすらダメだと言うように親指が頬を滑った。