コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ35)

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【ふつふつと】ページ35

(竜胆視点)

月に一度の定例会が終わったのは、日付が変わって少し経ってからだった。今日は帰りが遅くなるから先に寝るようAには伝えてある。

今日はAに会えない。最近、当たり前になった帰宅の挨拶が帰っても聞こえない。沸々と湧き上がる感情のままに、車のドアを乱暴に閉めた。

「そろそろAちゃん帰してやっか」

「は？」

隣に乗り込んで兄貴が言った一言に、勢いよくそちらへ顔を向けた。兄貴が言っている意図がわからない。何も言えない俺の代わりに、ブォンと動き出したエンジンの音が兄貴に返事を返した。

当の本人は、俺の意見なんて聞く気なんかないというように、スマホを取り出して画面に視線を落としている。

「限界みてぇだったから、ここいらで一旦帰してやんねぇとAちゃんの方が持たねぇだろ。こっちも片したし、タイミングも言うことねぇ」

「……なに、言ってんだよ」

やっと出てきたのは震えた声。それは思い出した先日の光景に、徐々にドロドロとした嫉妬の感情を纏っていく。

「Aのこと、帰してやるとかありえねぇから。邪魔すんなら合鍵返して」

「一旦っつってんだろ。人の話ちゃんと聞け？」

こっちを向いた兄貴は、口角を上げて意地の悪い顔をしていた。8割、煽りだ。この間から勝手にAに会いに行ったのもそう。俺が問い詰めたって話した内容は教えてくれない。帰ってAに聞けば、話した内容はAの帰る時期について。急ぐなんて理由(わけ)わかんねぇことまで言っていた。

「お前のこと奇襲して解体した組織の残党も大方狩った。Aちゃんは梵天内でもお前の嫁で通してる。けど、お前ン家に缶詰にしてても靡かねぇから一旦外に出すんだよ」

「逃げるかもしれねぇじゃん！」

「だからお前、部屋にカメラ置いてんのな。むしろこんままの方が持たなくなっていつか逃げんぞ」

そもそも、と兄貴が続ける。
わざわざAを連れてきたのは“可能性”を摘むため。その間に梵天の幹部連中にAの存在がバレると俺らにとって都合が悪かったから。

「お前のあの様子じゃ遅かれ早かれバレてただろ。だから、まぁるく収めるために手ぇ尽くしてんの。出る芽はさっさと潰しとかねぇと、だろ？」

俺を奇襲して潰された組織の残党。そこから俺を助けたAに辿り着いて情報が漏れる可能性。組織の残党がAをダシにする可能性。