【これは……2】 ページ15
「……メ」
「え?」
「兄ちゃでも……Aはダメ」
ぎゅうっと閉まる腕と私の気道。
「俺ンだっつった、じゃん」
取んなよ、とさらに腕の力が強くなった。
「ひっ、ぐっ!」
「おー、締まってんなー」
「う゛っ……り、ん……さ……は、なし……」
「あ゛ー」
べしべしと首に回った竜胆さんの腕を叩く。ギブ──本当に、死んでしまう!
「っは……はぁ、はっ……」
盛大に咳き込みながら、なんとか呼吸を整える。その間もしっかり抱え込んで、私の頭に「うー」と頬をすりすりしている竜胆さんは相変わらず酒臭い。顔は見えないけれど、間違いなくベロベロだ。家にいた時のつっけんどん感は微塵もない。
「竜胆さん、暑いです」
「俺ンだっつったぁ……」
「はぁ……」
じっとお兄さんを見上げると、薄い笑みを貼り付けたままこちらを見下ろしていた。
「何考えてる?」
「この状況をどうにかして生きて家に帰りたい」
「名前の部分じゃねぇんだ。お前こんだけ俺の俺のって言われて何ともねぇの?」
すげぇ薄情ー、なんて言っているお兄さんの台詞には、言葉ほどの感情はこもっていない。
「そう言えば、名前教えてなかった。竜胆さん、名前どうやって……」
「やんねェ……」
ダメだ、聞こえてない。
相変わらず薄い笑顔を貼りつけたまま、感情の読めない瞳でこちらを見るお兄さん。
「何、考えてます?」
「こいつらめんどくせーな」
ぐーと鳴る竜胆さんの寝息。頭と首から腰に回っても、しっかりと筋肉のついた腕の力は揺らがない。
暑い!
時折、「寝てねェ……」なんて寝言を寝て言っている。たしかに面倒臭い──。
これをやった犯人であろう人に向けて、「なんとかしてほしいです」とでかかった言葉は、喉でつっかえて消えていった。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時