借家→持家 ページ26
その翌日。
借家の家主一家が来訪した。本来ならば大黒柱の男性一人が来るはずだったが、最後に一目見ておきたいと奥方や子どもも着いてきたという。
何やら色々手続きを済ませ、仮住まいの一軒家は正式に清水Aのものとなった。平屋だけでなく、土地も同様である。
この家の元持ち主である一家の親父は、元は大工業を営んでいたがその腕を買われて遠方に行くことになったという。トンカチや釘を持たせれば一級品の腕は、台所に立つと途端にポンコツになるらしい。
料亭で働いていたという嫁を貰い、子どもをもうけて一家は移り住んだ。移住先は田舎だというので、排気ガスにまみれた江戸よりかは空気が美味いだろう。
最後に、とかつて住んでいた家の縁側で茶を飲んだ。清水も誘われ、一家と共に庭を眺める。
「しっかしまぁ、どうなるか分かったもんじゃねぇなァ。まさか、俺っちが宮大工の親方に弟子入りするたァ」
「おやっさん今いくつ？」
「半世紀は生きてらぁ。もう歳数えんのもめんどくせぇ」
「んな訳ないだろ。アンタはいつも適当ばっか言って」
「Aもよぉ、最初は細っこい身体してたっつうのに、こんなに鍛えちまって」
「引きこもり生活は健在だよ。昨日久しぶりに外出たしね」
「まーったくアンタはこんな青白い顔しちゃって。日焼けしなさい、日焼け」
「おかみさん、今は男でも肌に気を遣うって知ってる？」
「アンタのはね、ただの出不精だよ。少しは歩きなさいっての」
「いっで!! ちょ、力強い」
「子ども三人も産んでんだ。力だってあるさね」
からからと笑うおかみ。もともとは彼女との出会いがきっかけだったのだ。
安アパートで原稿用紙と睨めっこして、何の偶然か処女作が受賞してしばらく。
取材だなんだと仕事が舞い込むなか、それだけでは食っていけずに工事のバイトをしていたときだ。
夜道を歩いていた彼女が酔っ払いに絡まれ、どこぞへ連れ去られようとしていたのを偶然発見したのである。
夜間工事で休憩中だった清水は弁当を放り、酔っ払いを追い払って彼女を保護した。
どっか明るいとこ行きなよ、と暗に遠ざかるように言うとこの辺は軒並み店じまいをしていて、なかなか入れるところがないと俯いたのだ。
よくよく見ると胎が膨らんでおり、清水は早退けを申し出て彼女を家まで送った。
家にいた親父にいきさつを話し、嫁を助けてくれた礼として上がり込んだのだ。
付き合いこそ短いものの、夫婦とはすぐ打ち解けたのだった。
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うす - 更新ありがとうございます…！この作品が大好きです応援してます！ (9月19日 22時) (
レス) @page50 id: d6b5e366a4 (このIDを非表示/違反報告)
oyz031(プロフ) - とても面白く、興味深いお話で続きが気になります。応援しています (8月30日 0時) (レス) @page49 id: 7ddb3de917 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - いつまでも更新お待ちしております、！ (5月21日 18時) (レス) id: c35eeb83bd (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 最近めちゃくちゃ更新されてますね！すごく楽しみにしてるので嬉しいです！無理のない範囲でこれからもお願いします！ (2023年4月22日 20時) (レス) id: 19052b8914 (このIDを非表示/違反報告)
モブ - ものすごくこの小説が大好きです！次の話に進むたびドキドキしてしまいます...!!! (2023年3月24日 2時) (レス) id: 24c7afdf4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：pillow | 作者ホームページ：
作成日時：2021年3月1日 15時
