1月 ページ2
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目の前が真っ暗になった。
声が出なかった。
医師の言葉に何も言えず、ただ唇を噛み締めた。
震える手で扉を閉め、とぼとぼと彼女の元へ向かう。
大体、あと1年て、なんやねんそれ。
原因不明とか言うくせに、そんなふざけた話があるか。
けれど、医師の言葉は同じ人間なのに有無を言わさぬ説得力があった。だからこんなに俺は取り乱しているのだけど。
「______あ、トンちゃん。先生なんだって?」
「あぁ、…やっぱり分かれへんのやって」
「そっか、」
病室の扉を後ろ手に閉めつつ、白いパイプベッドに横たわる彼女の横の椅子に腰掛ける。
彼女の原因不明の病についての検査は、ここへ来てから何度も行っていた。
けれど、結果はいつも同じ、異常無し。
つまり、既存のどの病にも当てはまらないのだ。
「薬増えるの?やだなぁ」
「いや、それは言うとらんかったで」
「もういいよ、私。わかんなくても。それより薬が嫌なの」
「嫌とか言うな。飲まな痛いねんで」
「そうだけどー…」
不服そうにパタパタと布団を叩く彼女。その愛らしくも切ない姿に危うく鼻の奥がツンとした。
「他にはなんて?」
「………何も。それだけやったで」
「そっか、じゃあよかった」
ニコリと笑った彼女はバッと布団を頭からかぶり、それから手だけをちょこんと俺の方へ伸ばしてきた。
「へへ、トンちゃん、どこー?」
「なにしてんねん、おるて」
すっぽり布団を被ったままフラフラと手を動かし、伸ばしかけた俺の手をキュッと掴む。
「………つかまえた」
いたずらっ子のようにそう言った彼女の手をそっと握った。
ふわふわで柔らかいこの手が、暖かいこの体温が、一年後には_______
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「………A」
「ん?」
好きやで、そう言った声は情けなくも震えていた。
「……んふふ、私も好き、」
照れくさそうに布団の中で丸まっている彼女の声も震えていたことに、その時はまだ気づかなかった。
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夏のスイカ - 初コメ失礼します。見させてもらっています。めちゃくちゃ感動しました。とても悲しいけどいい物語だと思いました......両方とも来世でまた結ばれ元気に過ごしてるのを見てみたいですね。最高でした..。きっといつかこの2人がまた来世で会えたらいいな.長文失礼しました (2021年9月11日 10時) (レス) id: b5169bd6bc (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - あ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“ぁ” もう無理、、、悲しすぎんよ、、、ちょっとこれはもう最高やわ、、、友達に布教する、、、友達wrwrd知らないけど、、、知らなくても普通に泣ける、、、最高ですわ、、、 (2020年5月26日 4時) (レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
ナナシ - はじめまじでぇぇ!!!!ただいま泣きじゃくりながら読ませていただきました。絶賛号泣中でございますぅ!!いや、もー最高です(ノД`)4月位から涙目で読んでました。涙腺崩壊しますぅぅぅ取り敢えず好きです。(は? (2020年5月25日 15時) (レス) id: ebc34290bc (このIDを非表示/違反報告)
鬱嶌。(プロフ) - 初めまして。読ませて頂きました、いつもなら泣かないのですが涙が出てしまいました。本当に本当に素敵な作品でした、手紙のところ、泣きながら書いたのかなとか考えるともっと涙が溢れて…他の作品も読ませて頂きます。これからも頑張ってください!応援しています、! (2020年5月15日 2時) (レス) id: 38c66e0295 (このIDを非表示/違反報告)
ちべすな。(プロフ) - 作品、読ませて頂きました。読み終わる頃には、泣いてました。本当に素晴らしい作品でした。これからも応援しています! (2020年3月29日 22時) (レス) id: 60661416db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆらら | 作成日時:2020年1月26日 23時