張り込み失敗 ページ10
.
資料室のドアを後ろ手に閉めながらこちらに歩み寄ってくるトンちゃん。
反射的に数歩後ろに下がり身構える。
「ぐ、偶然だね」
「は？偶然？」
誤魔化しのチョイスを間違えた！もうちょっとマシな言い訳は無かったのか！
何言ってんの？という目に冷や汗が伝う。
自分のオフィスでもないフロアの休憩スペースでこんな時間まで1人でぼーっとしていた、という怪しいレッテルを貼られかけ、慌てて取り繕おうと口を開く。
「や…先輩がね、トンちゃん遅いから様子見て来いって言うから、うん」
鮮やかに人のせいにして、心の中で先輩に謝罪。
「あ、そうやったんか。 すまんなわざわざ」
あっさり納得したトンちゃん。ふぅ、これで一安心…
「んー？でも俺Aちゃんに様子見に来られた覚えないねんけど…資料室来てへんよな？」
「えっ？あー……、あはは」
「なんですかねその限りなく棒読みな笑いは…」
鋭いトンちゃん、やっぱり小手先の言い訳じゃ誤魔化されないらしい。
「えーと…、入ろうとしたんだけどね…その、話し中みたいだったからさ…邪魔しちゃ悪いかな、なんて…」
「そんで？ずっとこんなとこで1人で？」
「や、シャオちゃんもいたよ！…さっきまで」
しどろもどろ。訝しげな目で見つめられ思わず俯く。嘘はついてない。シャオちゃんがいたのも本当だし、入ろうとして断念したのも本当。
「気にせんと帰っとってもらって良かったのに、なんかすまんな」
「えっ？いやいや、私が勝手に待ってただけだし…、」
「あ、引っかかった。 やっぱりわざわざ待ってたんやろ」
「うっ、」
得意げに見つめられ、ギクリと目を逸らす。次の言い訳を脳みそフル回転で探していれば、何でそんな慌ててんの？と言い放たれ、私に残された逃げ場は無し。
「……ご、ごめんなさい…引いた…？」
彼女でもないただの同期が自分をずっと待ってるとか、逆の立場だったら普通に気持ち悪いな…
自業自得。トンちゃんに嫌われても受け入れる他ない。
腹を括ってお通夜モードに入る私にトンちゃんは、｢いや、ちゃうねん｣と。
「……そういう女の子っぽい事されたら、俺すぐ勘違いするからやめとき」
.
「……へ、それって、！」
「さ、9時すぎたし帰ろか」
「えっ？待って！わ、私も帰る！」
慌てて背中を追いかけた私はトンちゃんの耳が赤く染っていることなんて気づかず、さっきまであんなに頭を占めていた元カノの事なんて、すっかり隅の方へ押しやられていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 400人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
林檎(プロフ) - え、これも神作品ですね。tnちゃん可愛すぎかよ。 (2020年5月26日 2時) (
レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらら(プロフ) - おいちこさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます；；最新作以外全て完結済ですので、ぜひ覗いて見てください( ´ ` *)コメントありがとうございました！ (2020年2月5日 17時) (レス) id: 5de7af82d2 (このIDを非表示/違反報告)
おいちこ - こんなに面白いの読んだことないわ...！めっちゃ最高でした！神作品ありがとうございますぅぅっっ！！トントンさんのこともっと好きになりました。他の作品も読ませていただきますね！ (2020年2月5日 16時) (レス) id: 5e1cddc80f (このIDを非表示/違反報告)
ゆらら(プロフ) - しゅなさん» プロ結果頂き光栄です(涙)こちらも覗いてくださりありがとうございます！連載中の作品もお楽しみいただけたら幸いです( ´ ` *) (2020年1月1日 21時) (レス) id: 5de7af82d2 (このIDを非表示/違反報告)
しゅな - はいプロ、神。これは…鼻血だらだらですわ。とんち可愛ええ！＋イケメン！…は？…僕もう…昇天したんやけどｗｗｗ (2020年1月1日 19時) (レス) id: e68f489c1a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆらら
| 作成日時：2019年12月20日 22時
