32話 ページ33
.
手を引かれるがまま着いて行った先は、あの日と同じ公園。
未成年の私達が人の目を盗んで二人きりになれる、至福の場所。
この前と同じベンチに足を進め、座った途端に勢いよく視界が反転した。
「…もう、頭ぶつけたんだけど」
「いい刺激やろ？」
ベンチに押さえつけられた身体。背中に感じる硬い質感は、不器用なトンちゃんの″私への気持ち″の形。
見つめ合うこと数秒。
第3ボタンまで開いたシャツから覗くのは赤黒い印。昨日トンちゃんが焼き付けたそこに、彼は指を這わせた。
「こんなん、意味なかったやん」
「意味あるよ。私、離れてないじゃん」
「知らんオッサンとヤッた分際で何ほざいてんの？」
「気持ちの話だよ」
冷たい顔のトンちゃんにクスリと笑う。
絆創膏3枚分の蓋を彼の眼前で剥ぎ取った。
顕になる爛れた傷は、トンちゃんへの想いの具現化。自分の気持ちに蓋をして他人と肌を重ねる私は、蓋を開ければ身も心もおかしくなるくらいトンちゃんでいっぱいだった。
「……なんでなん？お金が欲しいん？そんなら俺、あげるよ」
「トンちゃんから貰いたいものは、お金じゃないもん」
「じゃあどうしたら辞めてくれるん？Aまで俺の事1人にするつもりなん？」
「……いるよ、私、ここに。トンちゃんから離れたこと、1度もない」
『A″まで″』と表現したトンちゃんの言葉の真意を考える余裕は私にはなく、ただ目の前で顔を歪ませるトンちゃんに、どうすれば納得してくれるだろうとそればかり考えていた。
「Aは、いなくならんといてや……他人の物になるんとかも考えられへんねん…、」
俺のAやろ？と、不安げに揺れた視線は私の視線を絡め取り、呟かれたその言葉に私は今にも感涙の叫びを上げたい気分だった。
夢にまで見た、その言葉。
やっと、やっと、やっとトンちゃんの心の内側に入り込めた。
目の前の歪む顔に手を伸ばし、頬に触れる。夏なのに、ひんやりとしたそれは興奮で暖まった私の手には心地良い。
「言ったじゃん、私。トンちゃんの好きな事全部してあげるって。だから、トンちゃんの好きにして…良いんだよ」
トンちゃん以外の人に抱かれた私に怒っているなら、その手で制裁を下してくれても構わない。
他人に目に映れなくなるまで、トンちゃんの手でめちゃくちゃにしてよ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 438人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ことこ(ドS娘)(プロフ) - ありがとうございます。あなた様のおかげで、ut先生とtntnの魅力に気づきました。 (2020年8月16日 12時) (
レス) id: 0a70119f62 (このIDを非表示/違反報告)
豚さん - 今日見つけて一気読みしちゃいました.....面白すぎます多分8回以上は号泣しました....『こっち向いて、先輩』もすっごく見てました!!ドロドロしてるのめっちゃ好きなのでめっちゃ面白かったです、これからもいろいろな小説の更新頑張ってください!!! (2020年6月12日 14時) (レス) id: dc625e2a67 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - もう病み具合がちょうど良すぎて登校日なのに徹夜しちゃいました！あまりグロいのに耐性ないんですけど案外普通に読めました！これ読みながらとあるボカロ曲聞いていたら歌詞の意味が違って聞こえましたw (2020年5月26日 6時) (レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
しき - あ、神でした (2020年5月25日 16時) (レス) id: 1586e9f170 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 完結おめでとうございます！いや…いい意味でゾクゾクしました…本当にゆららさんが書く小説どれも大好きなので読んでる時、ドキドキしながら次の更新を待っていました！新作も楽しみにしております…！、！！ (2020年5月25日 11時) (レス) id: 85216316b3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年4月25日 0時
