16話 ページ17
.
屋上を吹き抜ける風に乗り、1限目終了のチャイムが耳を擽る。
私は鬱くんの言葉に何も言えず、基なんと言っていいのかまるで分からず、ただ口を噤んで沈黙を貫いていた。
「ふは、なんも言うてくれへんねや。さすがやなお前」
「いや違……ごめん、」
「いや、俺こそごめん…まさかこうなるとは思ってなかったんよ、」
ぽつりぽつりと語りだした鬱くん。
一番最初にここで話したあの日は、純粋に『人助け』のつもりで声をかけただけだったと。
「でもさー…やっぱ、俺も情が湧いてもうて」
時が経つにつれ、放っておけばふらりといなくなりそうな私を助けたい、いなくなられては困る、そう思ってくれたのだという。
確かに私はここまで鬱くんが傍にいてくれなかったらきっとどこかのタイミングでいなくなっていただろうから、何も言えなかった。
トンちゃんへの想いから自身を捨てようとしていた私を、目の前の鬱くんは今までどんな思いで引き止めてくれていたんだろう。
________想像して身震いした。
『好きな人に好きな人がいる』この痛みは私が一番よくわかっていた。それなのに、今まで鬱くんに甘えっぱなしだった私は、鬱くんの気持ちなんて想像したこともなかったのだ。
「ごめん……私、」
発した声は震えていた。未だ目の合わない彼に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
けれど、それに反して鬱くんは、「そんな顔せんといてよ」なんて笑って私の頬を指でついた。
「安心せい。言うたやろ？助けたるって。Aちゃん、ちゃんと覚えとってくれてんな」
「……うん」
「Aちゃんの事は好きやで。だからこそ死なれたら困んねん、俺が」
『俺が』を強調して言う彼は、もう一度私の顔を覗き込み、私の顔の両脇に手をついた。
____縮まる距離。
反応も出来ない私に、少し笑った鬱くん。
「……待たせてごめん。やっと上手くいきそうやねん、……だから、さ」
.
「_____今だけ、許してや……」
私がトンちゃんに言えない想いの数だけ、鬱くんも私に言えない想いを内に秘めていた。
鬱くんの好きな人は私。
私の好きな人はトンちゃん。
一生交わることの無いはずだったその想いは、私の視界を遮って押し当てられた唇と共に、ほんの一瞬だけすれ違った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 438人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ことこ(ドS娘)(プロフ) - ありがとうございます。あなた様のおかげで、ut先生とtntnの魅力に気づきました。 (2020年8月16日 12時) (
レス) id: 0a70119f62 (このIDを非表示/違反報告)
豚さん - 今日見つけて一気読みしちゃいました.....面白すぎます多分8回以上は号泣しました....『こっち向いて、先輩』もすっごく見てました!!ドロドロしてるのめっちゃ好きなのでめっちゃ面白かったです、これからもいろいろな小説の更新頑張ってください!!! (2020年6月12日 14時) (レス) id: dc625e2a67 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - もう病み具合がちょうど良すぎて登校日なのに徹夜しちゃいました！あまりグロいのに耐性ないんですけど案外普通に読めました！これ読みながらとあるボカロ曲聞いていたら歌詞の意味が違って聞こえましたw (2020年5月26日 6時) (レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
しき - あ、神でした (2020年5月25日 16時) (レス) id: 1586e9f170 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 完結おめでとうございます！いや…いい意味でゾクゾクしました…本当にゆららさんが書く小説どれも大好きなので読んでる時、ドキドキしながら次の更新を待っていました！新作も楽しみにしております…！、！！ (2020年5月25日 11時) (レス) id: 85216316b3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年4月25日 0時
