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32話 ページ32

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私の顔を覗き込むようにして見ている鬱くんの顔は意地悪く口角が上がっていて、いつの間にか私は弄ばれていたらしい。ただ、やっぱり私をこの場から逃がす気はないらしく、腰にがっちりと回った腕は振り解けそうにもなかった。

「質問変えたるよ」という助け舟を出した鬱くんだけど、その顔がニヤリと笑っていることによって果たしてそれが本当に助け舟なのだろうか、と今更不安になりつつ、鬱くんは口を開く。


「例えば、俺じゃない男にこんなんされたらどう思う?」


え、と口を開こうとした私を遮り、首筋に埋められる鬱くんの顔。
柔らかい髪が首元をくすぐる感覚は何となくデジャブで、こそばゆさに身をよじった。

なに?と小さく尋ねた私の問いには何も答えず、その代わりに返ってきたのは首筋に触れる柔らかい感触。

ぞわりとその感覚に全身が粟立ったものの、私はまたしても特に拒むこともしなかった。
″鬱くんだったら″嫌じゃない。たったそれだけの単純な理由で。


「………鬱くんじゃなかったら、蹴飛ばしてる」
「ふは。絶対やで?」
「ていうかそもそも、こんな状況にならないし」


冷静に考えれば、今私たちがゼロ距離と言っても差し支えがないほど身を寄せあっているこの現状も意味不明なのだけど。

私の答えに納得してくれたらしい鬱くんは満足気に笑いつつ、「今は首だけで我慢したるよ」と不敵なことを言いつつ唇をペロリと舐めた。


瞬間、そんな些細な行動に私はまんまと心臓が高鳴ってしまい、不意に鬱くんに感じた異性の一面に私は俊敏に目を逸らした。
落ち着け落ち着け、と心臓に言い聞かせ、なんとか顔の熱を外へ逃がそうと画策してみる。


「……A?」


そんな私の焦りを見透かしているようなその声色は、私の名前を呼ぶ。
そしてそれには『顔を上げろ』という意味が含まれているような気がしたけれど、私は全力で知らないふりをした。

「なぁって。聞いとんの?」
「聞いてない」
「あ、じゃあ今から言うこと聞かんとってな?」

デジャブを感じる、と顔を上げかけたけれど、聞いていない体でいなければならない私はそのままで聴覚を研ぎすませる。


「俺さぁ、かなり嫉妬深いらしいねん。Aの前やと」


困るよなぁ、なんて。


その言葉で私まで困らせている自覚があるんだかないんだか、鬱くんは「嫌いにならんとって」と幾分弱々しい声でそんなことを言った。

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赤月セレン(プロフ) - コメント失礼します。物凄くお話にのめり込んで一気に読んでしまいました…とても良くてもう好きです(笑)tnさんの方の小説も楽しみに読ませて頂きますね。素敵なお話をありがとうございます、更新お疲れ様でした。 (2021年3月6日 22時) (レス) id: f86cb701a2 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ずきゅん (2020年8月28日 1時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
おいちこ(プロフ) - 完結おめでとうございます&ありがとうございますっ!!凄い、素敵でした...2人が幸せに結ばれて、私も幸せですぅ...ニヤニヤ止まんなかったですぅ...新作も読ませていただきますぅぅ...!!!!更新、頑張ってください!! (2020年4月25日 13時) (レス) id: 5a28085a2a (このIDを非表示/違反報告)
やち(プロフ) - 完結おめでとうございます!生活感のある日常に散りばめられたもどかしさと時々挿まれるドキッとする描写のバランスがたまらず、更新のたびにとても楽しく読ませていただきました。ゆららさんのsyp君がまた素敵で転がるほど好きでした…!次回作も楽しみにしています! (2020年4月25日 6時) (レス) id: 6f58a85157 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - かげでこそこそと見させて頂いておりました。なんとも言えない大人のもどかしさがまた純愛のようなものが感じられてとても良い作品でした。完結おめでとうございます。 (2020年4月25日 2時) (レス) id: bbf23e1c65 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆらら | 作成日時:2020年3月22日 1時

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