36話 ページ37
.
鬱先輩の言葉に何も言葉を発さず、グイッと私の腕を引いて部屋を出たゾムくん。
足がもつれそうになりながらもいつもと雰囲気の違うその背中に着いていき、狭い給湯室の扉を乱雑に開けたゾムくんはその中へ私を押し込んだ。
「ぞむく、」
「……ほんまなん？大先生が言うとったこと｣
顔の両サイドに手を付かれ、逃げる術もない。電気のついていない暗い空間でも分かるくらいゾムくんの顔は不安げで、まるでいつもの面影を感じない程に弱々しかった。
ここまで明言されてしまえば、今更ごまかせない。鬱先輩だって私をゾムくんから引き離すためにそれを伝えたわけではなく、ただ私を思い心配して言ってくれただけだ。
鬱先輩を責める気は全くない。だけど、とうとう知られてしまった逆恨みの事実を前にして、ゾムくんが今まで通り私の隣にいてくれるとは思えない。
「なぁ、答えてや……なんで今まで言うてくれへんかったん…？」
「心配……かけると、思って」
貴方と離れたくないから。そんな扱いを受けていても尚、そばにいたかったから。
そんな言葉を包み隠さず言えるような単純明快な関係だったら、どれほど楽だっただろう。
半分本当、半分嘘の当たり障りのない事しか言えない私を前にして、ゾムくんは壁に付いていた手をするりと離した。
「………ごめん、今まで。俺……そんなん何も気ぃついてなかった…」
「いいの、全然、」
そんな切ない目で、私を見ないで。
そんな想いの詰まった目に射抜かれて簡単に勘違いしてしまう程、貴方に依存してしまっているようだから。
鬱先輩へ寄りかかりそうになった私を引き戻した手はいとも簡単に私を包み込み、それにどっちつかずな心はあっさりと偏った。
我ながら最悪な女だなぁ、と2人を天秤にかけてその中央でフラフラしていた自分に嫌気が差すも、私は縋ってしまった。
その天秤から降りようとしている彼の手を、掴んでしまった。
私のほうを向いてくれないその手の体温が偽りだとしても、私はそれでもゾムくんの隣にいたかった。
同時に鬱先輩の事を、ただゾムくんから目を逸らすための逃げ場にしていた事に気づき、自己嫌悪が胸の内が黒く染った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1021人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…やばい…うわぁぁ…好き…（語彙力皆無） (2021年3月31日 14時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
ことこ(ドS娘)(プロフ) - あーーーーーーーーーーdi先生ーーーーーーー(震え)って現在なってます。うううううう推しはzmさんなのにううううううこんなに私を惑わすなんて……罪ですねっ！！(オールで小説を読んでた馬鹿野郎より) (2020年8月15日 8時) (レス) id: 0a70119f62 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - えぇ、、、無理、、、好きです。もう最高でした！神作品ですね！というかtn落ち多いしzm落ちのこの作品もむっちゃよくてtnzmが最推しな我歓喜 (2020年5月26日 2時) (レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - あと1週間はこのお話のエモさを思い出しては悶えると思います。本当に素敵な作品をありがとうございました。次回作も応援しています！長々とｺﾒﾝﾄ失礼しました。 (2020年3月6日 9時) (レス) id: e6da1803b4 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - 変わっていく気持ちが、さらにutさんと2人は違うということを強調されていて、報われないutさんに心が苦しいです。でも2人がﾊｯﾋﾟｰｴﾝﾄﾞを迎えられて本当によかったです。zmさんはこのお話の主人公でしたが、utさんこそ間違いなくヒーローだったと思います。 (2020年3月6日 9時) (レス) id: e6da1803b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年2月11日 22時
