Another guy

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「これ……あげる……」
突き付けるように出してきたのは黒いピックと一輪の薔薇。
「今日、ライブで使ってたピック。」
私この前のピック、まだ返してないのに……
また貰っていいのかな？
それに薔薇まで……

「今日来てくれたお礼に……予備で用意してた薔薇だから、綺麗だよ。」
お礼って……私の方がしないといけないのに！
だってお金、全然払ってないんだよ。

「ごめん、遅くまで……送っていけないけど、気を付けて帰って。本当にごめん……今日はありがとう。」
真っ赤な顔をして一方的に言いたいことを言って立ち上がると、急ぐようにドアを開け中へ入ってしまった。

変な田辺君……きっと自分のステージを見られて恥ずかしいんだね。
貰ったピックを鞄に入れて、薔薇は花冠だけを鞄から出して駅へと向かう。

家路の途中、大きな満月が七色の輪の中夜空に浮かんでいた。
私は鞄から薔薇を取り出して月へとかざす。

“Rose in the Moonlight”

田辺君のバンド名……ピッタリね。



家へ着いて靴を脱いでいると電話が鳴った。
ママが出たから階段を上がろうとすると、「彩、小塚君から電話よ。」呼び止められる。
「あなた、今日塾じゃなかったの？」
うっ……特別授業って嘘ついてたのに……

「小塚君は別のクラスだから……」
平常心を装い言うと「あら、そうなの？」あっさり引いてくれた。
たすかった……

「代わりました。彩です。」
『アーヤ、今日早く帰ったの？』
小塚君、何だか困った声してる。どうしたの？
「うん……ちょっと用事があって……」
『そうなんだ……皆、心配してたよ。美門が最近アーヤの様子がおかしい。って言ったから若武なんて、皆で捜索する勢いだったんだから。』

もう！翼ったら…余計な事を……
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」
『よかった……安心したよ。』
「うん……」
落ち着いた小塚君の声を聞いてそっと受話器を置いた。

皆に内緒にしておくのは少し胸が痛む。
けれど田辺君との約束も大事。
KZとは関係ない事だし……

そう！ これは私と田辺君との事であって、誰かにとやかく言われる筋合いはない！
無理矢理自分を納得させる。

ママに気づかれないよう一階へ降りて洗面所へ。
水を張って薔薇の茎を浸け、水中で斜めに切った。
箱から出したばかりの真新しいグラスに薔薇を入れ、机に飾る。

暫くの間、深紅の薔薇を眺める。
ライブの余韻と田辺君の真っ赤な顔を思い出しながら……

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