Another guy

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『あれ、誰？』『え！？田辺？』
『やだ、ちょっとカッコ良いんじゃない？』

田辺君に会えない鬱々とした今週の終わり。
５時限目と６時限目の休み時間に教室がザワついた。
教壇の方の入り口に目をやると、扉の上の桟に手を付いて田辺君が立っていた。

見てびっくり！！

だって、今日の田辺君はライブの時の髪型と変わらない。
長い髪は束ねず、下ろした前髪から鋭い視線で教室を見回している。

「美門！」

教室の皆が田辺君の一声に一斉に翼を見た。
翼はそんな視線の中でも動じず、静かに席を立って田辺君の方へ。
側を通る翼を見上げると、緊張した様子も無く、軽く微笑んでいた。

田辺君……どうしたの？
翼に何の用事があるの？

廊下で話す二人に皆、遠目から好奇心の目を向けている。
私もその中の一人。
時々二人して私の方をチラッと見ているから、きっと私に関係する事なんだ……

５分程で話し終えた二人は右と左に別れてその場からいなくなった。
とりあえず、私の中の緊張が解けてホッとする。

次の授業の用意をしていると、ふいに机に拳が置かれた。
考える間も無く、拳がパッと開くと小さく畳んだ紙が残されている。

『放課後田辺が屋上で待っている』

広げると翼の走り書き。
田辺君と別れた後、すぐに教室に入らなかったのはこれの為だったんだね。
ありがとう、翼。
そして直接呼び出さない田辺君。
私が困るのが分かってるんだね。
二人の優しさに温かい、ほっこりした気分になった。


放課後、HRが終わると暫く席に座ったまま皆が出て行くのを待った。
HRが長引いて落ち着かなかったけれど、あえて心を静める。

田辺君にライブの感想を言って、私の代わりに生活指導の先生に怒られた事を謝って……『経済的理由』の意味を聞かなくちゃ……

考えていると静めるはずの胸は意に反して鼓動が早くなる。
この声に出せない、言葉にならない、吐き出したい気持ちに気分が悪くなりそう。
田辺君の顔を思い浮かべると苦しくなる。

まるで風邪のひき始めみたい。
熱っぽいのに“気のせい”と言い聞かせ、いつも誤魔化している。

熱を帯びる頬に、
これは…もしかして……
うぅん、違う……私に限って……
否定し続けてる。


最後の子が出ると鞄を持ってゆっくり教室から出た。

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