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【胡蝶カナエ】互いに記憶はなくとも ページ3

大正時代、見合い結婚が主流であるこの時代。

男は性にふしだらでも、女には純潔が求められる。男尊女卑が根付いていた時代。

女学校に通えるのは裕福な家庭のみで、彼女達の嫁ぐ相手はお家が決めるもの。
結婚前の異性との交友なんてものは御法度。


自由恋愛なんてものは、夢物語である。


そんな背景もあり、女学校は男子禁制の秘密の花園である。
行き場のない乙女心は同性に向かうのも自然の摂理というものだ。

友情以上、恋愛未満の女生徒同士の“エス”という特別な関係。
その関係の2人は、下級生は上級生を『お姉様』と呼び慕い、文通をしたり2人で遊びに行ったりと、先輩後輩とは違う密な繋がりを持つのだ。


この帝都月ノ宮女学校でも憧れの『お姉様』というのが存在する。
少女漫画における学校1のイケメンポジションだと思ってくれればいい。

春、新入生達は噂の女生徒をひと目見ようと、それとなく上級生の教室付近の廊下に点在していた。
あまりあからさまに見に行くのははしたないからである。


「見まして? あちらの方が胡蝶家の御息女、カナエさまよ。麗しのお姫様だわ」

「美しいだけなく、おおらかでお優しい方だと、姉様から聞いていますわ。お人柄まで素晴らしいだなんて、憧れてしまいます」

「同級生のしのぶさんのお姉様なのですって」


胡蝶カナエ。
濡れた漆黒の黒髪に、形の良い小さな鼻と口。一国の姫君のような令嬢である。

更には、おおらかで心優しい性格と、母性溢れる包容力が高いことも相まって憧れのお姉様として注目の的な女学生である。


「そして、カナエさまのお隣にいらっしゃるのがAさまね。お話に聞いていた通り西洋の、金糸の髪と澄んだ空色の瞳。綺麗ねぇ」

「お母さまが外つ国(とつくに)のお生まれなのですって。スラリと長い手足に、切れ長の瞳。素敵だわ」


藤咲A
特務諜報総長……ようは軍の出の中流貴族、藤咲家の一人娘。
西洋人形のように整った顔立ちと、高い身長。そして


「きゃっ」

「……大丈夫ですか、カナエ。病み上がりなのだから無理は禁物ですよ」

「わかっているわ、大丈夫。ちょっとふらついただけよ」


ふらついたカナエに、瞬時に身を滑らせて抱きとめるA。
これを隠れ見ていた女生徒達は、込み上げる黄色い悲鳴を押し殺すことになる。


そう、これである。

西洋の騎士道物語の騎士のような立ち振る舞いは、乙女心を存分に擽るのだ。


2人は誰も手を伸ばせない高嶺の花なのである。

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作者名:ひよこまめ | 作成日時:2019年12月10日 19時

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