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乾燥機が静かに停止した。
ピーと機械音を上げて鍵の開く音がする。
敦は立ち上がり、大雑把につかみ取ると直ぐそばの台に置いた。
ひとつづつ、丁寧に畳んでゆく間、太宰はベンチに寝っ転がったまま、目をつぶっている。どうやら手伝う気はないようだ。
とはいっても立った二人分、しかも一着ずつの畳む時間など、たったの数分で終わる。案の定、すぐに畳み終わった敦は紙袋に洗濯物を詰めた。
「太宰さん、そろそろ帰りましょうか」
「…ああ」
それだけ言って太宰は目をこすりながら立ち上がる。
敦は太宰の顔を覗き込んだ。ずっと伏せていたのでもしかすると泣いているのではないだろうかと思ったのだが、別に普段と変わらない顔できょとんとされた。
「どうしたんだい?」
「いえ!なんでも」
なんとなく気まずくてはなしかけ辛い。
そんな雰囲気を気にかけた太宰が、敦に話題を持ちかけた。
「国木田君との修行は楽しいかい?」
大粒の雨が傘に当たり、大きな音を立てる。
少し張った声で言った太宰に敦もやや大きめな声で返す。
「楽しいですよ。国木田さん、教え方が上手です。学ぶ事がたくさんあります!」
早く強くならないと。と付け加えた。
「強さはそんなに簡単に身につける事が出来る事が出来ないからね…頑張りたまえ」
はにかんだ太宰に敦は「はい!」と笑顔で答える。
少し緩くなった空気に安心しえ来た時。敦はふと疑問に思った。
__太宰さんはとっても強いけれど。誰かに教えてもらったのだろうか。
「太宰さん、太宰さんは、誰かに教えてもらったんですか?」
「…そうだね、私も師匠と呼ぶ人はいたよ」
敦は焦った。「あ、もしかして言っちゃいけない領域だったかもしれない」
表情を見て育ってきた敦にとって、相手のスイッチが変わった事はよくわかった。
そして、それがもしかしたらと言う事も感づいていた。
「敦君…今から言う事は誰にも言っちゃいけないよ?」
「はい」
太宰は優しい顔でそういった。
「私はね、師匠が大好きだったのだよ」
「え」
「けれどね、数年前に死んでしまってね…」
「もしかして」
「そう、Aさん。彼女はとても強い人だったよ。今でも勝てる気がしないね」
「へぇ」
「うふふふふ以外?」
「はい、意外です。太宰さんに好きな女性がいらっしゃったなんて」
じゃあ、あのAさんは誰なんだろう。
敦は背筋が凍った。
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みぃ(プロフ) - 紅羽さん» コメントありがとうございます!頑張ります! (2019年1月18日 22時) (レス) id: 48f4ee6765 (このIDを非表示/違反報告)
紅羽 - とっても面白いですね!更新頑張って下さい!応援してます! (2019年1月11日 20時) (レス) id: a17c6e8d22 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - yamamia38さん» こちらこそありがとうございます! 更新遅くて申し訳ございません。これからもよろしくお願いします! (2018年12月18日 18時) (レス) id: 48f4ee6765 (このIDを非表示/違反報告)
yamamia38(プロフ) - ヤバい!面白いですね!投票とお気に入り追加させていただきました!太宰さん推しだから嬉しいです。有難うございます! (2018年12月16日 22時) (レス) id: bb32575fc9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 青森県と大阪府さん» コメントありがとうございます!ちょっと今日本にいないので更新はできないので、ごめんなさい。勧めてまでくださり…照れます。これからも、よろしくお願い致します。 (2018年10月23日 23時) (レス) id: d688bcfef3 (このIDを非表示/違反報告)
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