約束 ページ31
「私はこれを渡すわけにはいきません。
.....渡したら、貴方を殺すことになる」
何も言わないAさんに振り返る。
目は見ることが出来ない。私こそ何も言えなくなってしまうから。
「昔の私ならそれは願ってもないことでしょう。
だけど...今は違う！
Aさん、お願いです.....！
私の家族を、どうかこれ以上奪わないで.....っ」
目から涙が流れてく。まただ。
私はこんなに涙脆い女だっただろうか。
それだけ、貴方が────Aさんが大切なんだ。
「────ソラ、」
少し背の高い、Aさんが私と目線を合わせた。
黒いその瞳は昔から何もかも映し出してきた。この世界も、私のことも。
「じゃあ今度は、私と『約束』しようか」
あの日と同じように、Aさんは笑った。
「私はね、君の言う通り今から十尾を封印しにいく。
きっと簡単な事じゃない。それは分かってるよ。
でもね、今封印しないと、今じゃないと、
────私も、たった一人の家族を失うことになる」
感じる力がさらに大きくなった。やはり十尾だ。
「私は私の親のことはもう覚えてない。
だから本当の家族は、ソラ、君だけだ」
「.....っ」
涙を拭おうとするが、その腕を掴まれた。
優しく、壊れぬような。
「ソラが家族を想うように、私も家族を想いたいの」
「けれど貴方は、私の想いを裏切る」
「ううん、だから、約束しようか。
────私は必ず帰ってくる。
これが、お互い家族を想う為の約束だ」
目の前に差し出された小指も、あの日と同じ。
あの日は契約する為に。
今日は、新たな約束をする為に。
その小指に、小指を絡める。
私を掴む手を振り払い、札を突きつける。
「約束を破ったら、今度こそ殺しに行きます」
「.....いいね。
破れそうにないよ」
Aさんが札を受け取ると、力が抜けていく感じがした。代わりに目の前の力が大きくなる。
「さぁ、行ってください。
どうか、この世界をよろしくお願いします」
「.....ん。
────ありがとうソラ。大好きだよ」
微笑み返すと、安心したようにAさんは飛び立っていく。
「.....っ、あぁっ.....」
行ってしまった。止まりかけていたそれは流れ出す。
絡めた小指の感覚は、まだ微かに残っている。
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作者名：MiUmIu | 作成日時：2018年7月22日 18時
