側近 ページ28
────母は私をよく褒めた。
『ソラ、アンタはいい子だね』
私の頭を雑に撫でる手と、タバコ臭さが好きだった。
『ソラ、ごめんよ。
最後ぐらい母親らしいことさせて』
あの日、離れてしまった大好きな手は、炭となって空へ散った。
『────じゃあ、私と�犒戚鶚瓩靴茲Δ�』
私な差し出された次の手は、大っ嫌いなものだった。
表の人間共を恨んでいた私は、誰も信じれなかったし、信じたくもなかった。
その中で私を救おうとするその手が、嫌い。
『今は小さなこの力。大きくすれば、
君は、君に忠実な下僕を手に入れることが出来る。かなり大変だけどね』
私の手の中で小さく震える、『四番札』に、あの人は手を重ねた。
『強くなってから、強くなってからだよ？
────私を殺しにおいで』
反対の手で私の頭を撫でるあの人は、
今になっては、私の『恩師』。
かけがえのない『家族』。
尊敬するべき『先生』。
追いつくために、必死だった。もう、殺意なんてとっくになかった。
ただただ、貴方と共に、今日も街を歩きたかっただけ。
.
薄暗くなってきた。昼の似合わないこの街にはお似合いの時間だ。夕暮れ。
リビングの窓は全開にしておく。これから冷えるのに？
いつもの事だからだ。
玄関から入るのが面倒だと、窓から帰ってくる事は。
ねぇ、そうでしょう？
「────Aさん」
大切な我が家への侵入者。風で、そのポニーテールは揺れていた。
「────やぁ、元気そうだね」
「えぇ。見ての通りです」
「うわー、久しぶりだわ、家」
挨拶もなしに家の敷地を踏む貴方。
「.....ただ帰ってきたわけではないんでしょう？」
サボり症候群の貴方だもの。
面倒な理由があるはず。
「さすがソラ。
君は、私のことをよくわかっている」
出会ってからその言葉は聞き慣れた、はずなのに。
どうしてでしょうね。数日離れただけで、もう新鮮なものと化しているのは。
「えぇ。
伊達に、貴方の右腕をやっていませんから」
甲を唇に当て、音を鳴らす。
私はいつもそう。貴方の仕事のツケを溜めていくのが、私の仕事。
「ツケを、今ここで払ってもらいましょう」
「.....いいね。
やっぱり、私の側近はそうでなくっちゃ」
笑った。
いつも見せていた、『ただいま』のAさんの笑顔。
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作者名：MiUmIu | 作成日時：2018年7月22日 18時
