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中原中也の誘拐3 ページ27

「とりあえずは座りなよ」

居間に迎えられて椅子へ腰掛けるよう促される。ちらりと横目で窺ってみれば、どうやら移動を手伝う気は更々ないようだった。未だ対等の存在として扱われていることに安堵したのはきっと気のせいに違いない。

のろりのろりと動いてやっとの思いで席に着くと同時に、嫌な汗を掻いた。戦場で戦おうとも汗一つかかないことすらあったのに、これも身体が弱っている証拠になるのかと常々嫌になる。

俺のその姿を確認したからか太宰も同じく向かい側へと座った。

「それじゃあ始めようか。まずは何から話したい?」

「なンも話すことなんてねェよ、何度言ったらわかる。手前が一人でくっちゃべるだけだ」

あからさまに顔を歪めながら目を逸らすと、では始まりはそれでも構わないよと微笑んだ太宰に若干の悪寒を覚えながらも致し方なく耳を傾けてやる。男が一つ口を開いた。

「そうだ、まずは近況について互いに話そうか。私はつい最近裏組織の大きな抗争に巻き込まれたばかりでね、此方の仕事は麻薬密売の取り締まりのみだったのだけど、運の悪いことに戦場へと放りだされてしまった。しかもそれが密売組織と元職場との抗争の真っただ中。前線で戦う芥川くんたちを見かけたよ。君はそんななか異能を使って病院送りになっていたわけだけど」

「手前さっきからごちゃごちゃと。なにが言いてェ」

「あれ、喋らないんじゃなかったの?」

チッと舌打ちをかまして睨み上げると、太宰は何を考えているのかわからない作り笑いを浮かべて、では話題を変えてみようかと言った。訝しげな眼差しにも全く動じない。

「ねぇ、中也。君はもし叶うのならば組織に戻りたいと考えているかい」

唐突な質問に一瞬目を見開いてから間髪開けずに頷いた。当り前だろう。幼い頃妹と共に拾われてから、ずっとポートマフィアに忠誠を誓ってきた。生きる力もない無力な俺たちに寝床を与え、食事を与え、教養を身につけさせ、延いては存在価値を見出してくれた。

返しきれない恩がある。何処かの誰かのように恩知らずにも離反など、考えたこともない。

「そう。次で最後だよ」

飄々とした雰囲気を纏った作り笑いが徐々に消えて行き、奴の顔に影が落とされる。何かを見据えるような鷲色の瞳。既視感があるのは...それが4年前隣に居た太宰治の顔だったから。

「中也が異能の副作用に侵され始めたのはいつだ」

全く閉口した俺に、太宰は冷たい笑顔を携えて鋭く放った。



「答え合わせをしようか」

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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:苗代 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年4月8日 2時

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