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社の買い出しのため百貨店を訪れていた国木田と宮沢の気遣い、といっても半ば無理やり車に詰められた私は、そのまま病院へと送られた。全く探偵社の社員は揃ってお人好しだ。

車椅子を受け付けに預けると、兄の病室まで通される。
中原中也はまたあの日のように静かな寝息を立てて眠っていた。

どうやら運び込まれた病院はポートマフィアの息がかかった施設のようで、すぐさま森鴎外に連絡がいった後、彼の顔見知りである人間が担当医師となった。おかげで兄の衰弱の原因である異能についても理解があり、暫く此方で様子をみようと話が落ち着いたのだ。

手続きと今後についての話を一通り終えると、入院の準備をするため、なんとか力の入らない足を奮い立たせて帰宅した。準備を終えた部屋は随分と殺風景なもののように思えた。

*

後日、昼頃に兄が目覚めたと連絡を受けた。一刻も早く会いたくて碌に物も持たずに家を飛び出してしまったけれど、逸る気持ちとは裏腹に少し遠くにある病院へはなかなか着かない。
焦っているからこそ時間が長く感じられてしまうこともあったのかもしれないが。

ようやく辿り着いた病院で受付を済ませ、早足で兄の元へと向かう。
立ち止まった部屋の前で戸を叩こうと片腕を上げて、その手を止めた。

いつもそうだ。私はいつも、あと一歩のところで足を踏み出せない。昨日兄を追いかけられずにいたことも、誰かさんとの間に一線を引いてしまったことも。全て、そう。

実の家族を相手になにを怯えているのか。そう考えても、やはり右手は動かなかった。


「Aだろ? 入れよ」

突然部屋の奥から聞こえた声に驚いて、思わず後ずさりして身構えそうになる。おそらく気配を察知していたのだろう。その言葉に迷いはなく、確信を持って発せられたものだとわかった。

がらりと引き戸を開けると、寝台の上で上体を起こした兄の姿が目に留まる。変わらない風景。異なる点があるとすれば、彼の周りを姐様や首領が囲んでいないということだけ。
不安げな視線を感じてか、そっと微笑みかける兄に胸を痛める。

『おはよう、兄さん』

「ああ...つっても、もう昼だけどな」

『姐様たちにも連絡を入れたら、仕事が一段落したら来るって。多分明後日頃になるんじゃないかな。それまでにもう少し回復して、元気な姿を見せられるといいね』

「ああ、そうだな」

妙な間が目立つぎこちない会話。耐えきれず目を伏せると、Aと名を呼ばれた。


「昨日の、話だけどな...」

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眠夢_(プロフ) - 泣いた……文才の神ですか……苗代さんのシリーズ見させてもらってます……本当にどれも素敵な作品で度々泣かされます…本当に心から応援しています。 悔やむとしたら、私がもっと早く文ストを見ていたら良かったのですが…今、完結した姿で作品を見れてとても幸せです (2021年3月23日 0時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 乱歩君大好き人間さん» コメントありがとうございます。どういう意味合いで泣いてしまわれたのかはわかりませんが、心を動かすことはかなったということですね。何よりです。 (2018年9月29日 7時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - え…中也…ああー……おー…これは泣くわ (2018年9月29日 1時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 睦月さん» 展開は自分でも最後まで公開すべきか悩みました。亡くなる設定は作品連載当初から決まっていたのですが、濁すかはっきりと書くかは本当に悩んで今に至っています。ですが読者の方に感謝されるということは公開してよかったのですね。こちらこそありがとうございます。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - 櫻間さん» コメントありがとうございます。たくさんのお褒めの言葉が心に沁みます、とても嬉しいです。是非何度も読み返してください。何度でも前進し続ける彼らを見届け、未来を想像してほしいと思います。こちらこそ、読んで下さりありがとうございました。 (2018年9月28日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:苗代 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年4月8日 2時

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