出会って五日目 ページ6
あの日から、一週間が経った。
五大幹部の一人であり多忙を極める俺が足繁く病室へと通うのには、至極傍迷惑な理由があるからだった。手には料理の乗せられた盆が握られている。
「おいA、来たぞ」
一言声をかけると、中からどうぞと入室を促す声。
「手前また飯食わなかったらしいな。立原が困り果ててたぞ、せめて彼奴がいるときくらいは食えや。おかげで俺が毎回出向かなきゃならねェだろうが」
『だって』
「だっても何もない。食え」
『...いただきます』
この女、Aは俺がこの病室に滞在しているとき以外は何があろうと食事を受け取らない。そもそも、他人との接触を極端に拒み、医者とも必要最低限のコンタクトしか取らないのだ。例外として俺と立原。その立原の前でも食事はしない。
彼女と一週間毎日顔を突き合わせて分かったことがある。此奴は度胸はあるくせに、他人を信用しない。今この場所で接触する何人かを比べたときに偶然抜きん出たのが俺と立原、そしてその中でも俺との接触が特に多かったがために、俺に仮の信頼を置いているに過ぎないのだ。
正直これは、とても気分が悪い。
「ほんっと手前、俺の大嫌いなやつに似てるよ」
そう。似ているのだ、あの男の幼い頃に。他人を信用しないところも、勝手に人を背比べさせて自分に都合のいい人間の順位を決めるところも、心底。瓜二つだ。
『誰だっけ。太宰治さんだった?』
「名前なんか教えたことあったか」
『立原さんが』
「あのおしゃべり野郎」
後でみっちり扱かねぇとなと考えていると、ごちそうさまと手を合わせるのが聞こえる。盆の上の皿を確認すると未だ半分近くが残っていた。また、か。
「残ってるぞ」
『もう食べられない』
「だから細いんだ」
『まともな生活をしなくなってから、ご飯をちゃんと食べたことなんて全然なかったの。いきなり沢山食べろなんて難しい』
「あーあー、そうかよ」
時々、彼女はこれまで過ごしてきた劣悪な環境の片鱗を覗かせる。それにしてもひねくれた性格になりすぎている気もするが、特に今此奴は子どもだ。そんなものなのかもしれないとあまり怒らないようにしている。
どうせ、あと三週間やそこらの付き合いだ。
俺が何を言わずともそのうち勝手に此奴は育つ。
とにかく自分に出来ることと言えば、こんな世界に足を踏み入れさせないように、後腐れなく元の世界に返してやることだ。
愛を与えてくれる人間と出会えれば、きっとこの少女も変わるのだから。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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