愛のある日 ページ5
おそらくヨコハマにトリップしてしまった私は、絶賛困り果てていた。森さんの手前、あまりに自分の欲望に忠実な頼みごとをしてしまったので冷静に期限なんかつけてみたものの。
三日の期間は中原中也の迷惑を考慮してぎりぎり了承を得られると踏んだだけ。
三日後に情報を引き渡し、殺されないという保証もなければ元の世界に戻れるかどうかもわかっていない。トリップした際は気が動転して気が付かなかったが、いつの間にか夕方ではなく昼に変わっているこの世界で、私は途方に暮れていた。
確かに元いた世界が好きかと聞かれれば答えづらいし、ただいつかあの世界で心が押し潰されジサツなんて測ってしんでしまっていたかもしれないことを考えると、此処に来れたことは幸せかもしれない。
けれども全く未練がないわけでなくて、尚且つ私は人生なんて上手くいかないことを嫌というほど身に染みて知っている。この世界で最初からやり直して自由に生きようなんて強気にはなれなかった。
よくトリップもののお話で、すぐに状況を理解してその世界で面白おかしく楽しく過ごしてやる的な物語があるけど、実際体験してみればこんなにも不安で恐ろしい出来事はないと思う。
死んだ目で俯いていると、
突然眼前に小さめの手がひらひらと揺れた。
『えっ』
「ちょっと、なにぼーっとしてるの!」
エリスだった。どうやらうんともすんとも反応しない私がお気に召さなかったらしい。それもそうだと心から謝罪してから、何をしますかと聞いてみる。
「そうねぇ。じゃあお絵描きしましよ!」
『何を描きましょう』
「もちろんチュウヤよ!」
『なるほど、中也さんを...って、えぇ?! あ、えっとその、なんであの人を...』
「だって貴方チュウヤのことが好きなんでしょ? せっかくだからチュウヤの絵を描いて、プレゼントしましょーよ」
有難い彼女の提案にしどろもどろするしか仕方なかった。いやだって、仮にも私は、もう立派な高校二年生。十六歳。誰かに絵をプレゼントするようなかわいい歳でもない。流石に、ちょっと。
それに、私は。
『絵、下手なので...』
「いいのよそんなこと。気持ちがこもってれば」
『ご、ごもっともです』
絵が下手なのは間違いない。けれどいつだったか、どうしても憧れのポージング所謂“壁ドン”をした彼が描きたくて、イラストにかなり凝ったことがあった。
一応初対面の人間に、驚くほど細部まで書き込まれた似顔絵、渡すの...?
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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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