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我ながら、あまりに素っ頓狂な言動に驚いていた。まるで中原中也が好きで仕方ないような。まさか、そんなはずはない。だって私は、本気で彼に恋しているわけじゃないから。
私は、一方的に愛を送り続けられる存在なら誰でもよかったんだもの。それこそ目の前の太宰治であったって中島敦であったって。極端な話、泉鏡花でも構わなかった。
だから、だから。
顔には出さず頭をぐるぐる回転させながら、心の中で底抜けの焦りと不安を覚えながら愛想笑いしていると、中也さんが自然な形でとある人物に声をかける。
「おい、鏡花」
「何、兄様」
......?
何だろう。この、胸のもやもやは。すごく複雑というか理解し難い心境だ。やっぱり、今日の私はどこかおかしい。きっと風邪でも引いてしまったのだ。
風邪...ね。引くわけないんだけど。
「お嬢さん、難しい顔だね」
『え?』
「眉間に皺を寄せて、嫌悪を体現したような顔だ。せっかくの可愛らしい顔が台無しだよ。何か気に病むことでもあるのかい」
そう言われて初めて気がついた。自身が、目の前の光景をよく思っていないことに。そして私は考えているよりずっと、単純で分かり易いのだと。
にこにこと見透かしたような笑みを向ける男太宰に、
困ったような顔をしてみせると彼はうんと頷いた。
「鏡花ちゃん、敦くん。そろそろ行こうか。私たちはお邪魔らしい」
『えっ、あの』
ウィンクをして横を過ぎ去っていく彼に、感謝かありがた迷惑かはたまたどちらもか。そんな気持ちを抱きつつ、何だったんだあの包帯野郎と悪態をつく男を見つめる。
なんだ、と目を合わせてきた男を見て確信した。
____私は中原中也が好きなんだ、と。
きっとこれは誰でも良いなんて言葉で片付けるにはあまりにも重い。重くて、汚くて、苦くて、どろどろしてる。それが恋って感情だ。
昔たった一度だけ、覚えのある感情だった気がする。
『...帽子屋、見ないんですか』
「あ? お、おう。行くか」
しばし見つめ合ったあとの突然の言葉に戸惑いながらも、再び扉を開けようとした彼の手と近くに居た私が伸ばした手、指先が戸の前で触れ合う。
びくりと肩が揺れるほど、慌てて手を引っ込めた。
「わ、わりぃ。そんなに嫌がるとは」
『いや、嫌とかじゃなくて、その』
顔に熱が集まって自身の声がこもって聞こえる。
恥ずかしくて、本当に馬鹿らしい。
下唇を噛んで目を逸らす私を不思議そうに見る彼が、憎くて仕方なかった。
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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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