愛の三日間戦争 【中原中也】

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正直、恐怖で身体が震えていた。

どう考えてもおかしいもの。漫画の世界のキャラクターが、現実世界にいるわけない。この人はきっとコスプレイヤーか何かなのだ。この妙にリアルな匂いも人型の何かも、全部小道具。

「一般の民衆に見られてしまうとは何たる失態」

『え、あの』

「見られたからには排除する他ない」

あー、だめだこれは。この話を聞かない感じといい、無鉄砲そうな独走態勢といい、どう見たってあの人だ。だってめちゃくちゃ病弱そうな顔だし眉毛もないもん。これ絶対決め手でしょ。

「やけに腑抜けた顔。自分の状況が把握出来ていないのか？ 【羅生門】」

『ひぇ...ッ!!』

どうしよう、チビった。

迫力がありすぎるし、外套は動いてる。目の前の彼は本物だった。最早卒倒してしまいそうな状況で、私はなんとか地に足をつけながらも、殺気に涙目になる。

私はただ家に帰っていただけなのに。確かに呆けていた点に関しては落ち度を認めるけれど、だからって“文豪ストレイドッグス”の世界に来ちゃうとか聞いてない。

しかもよりにもよって、なんでこんなことに。

死を覚悟して目を瞑った瞬間、男の後ろから声が聞こえた。それはもう神に祈りが届いたのかと錯覚するような、私が何度も繰り返し聞いていた愛しい声。


「どうしたァ。芥川」

「ちゅ...」

『中也さん!!』

思わず叫んだあと、さーっと血の気が引いて行った。

「お知り合い、ですか」

「はァ？ 誰だこいつ」

完全にやらかした。怪しまれるどころか、即処刑ものだ。ただの女子高生がポートマフィア五大幹部の名前を知っているなんて。

どこぞの間者かと思われたっておかしくない。


ん...？ 私は、どう見ても普通の女子高校生。だからこそマフィアの情報を知っていたら只者ではないとわかる。一般市民の振りをした下手な間者だと、疑われる。

それを、逆に利用できるのではないだろうか。

「...ほぉ、現場を抑えられた上に俺の名前まで知ったるたァな。尚更生かしちゃおけねえ。芥川、すぐに片付けろ」

「御意」

『まっまま待って！ 私のことを殺さないで。ポートマフィア首領森鴎外直轄遊撃部隊隊長芥川龍之介さん、五大幹部中原中也さん！』

「...矢張り手前色々知ってやがるな？」

『そう、そう！ 私色々知ってるの。ポートマフィアのことも、武装探偵社のことも、死の家の鼠のことも、異能特務課についても！』

俺たちと取引しようってのか。

そう言って睨みつける中原に、私は厳かに頷いた。

○△□→←愛の始まり

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