初日 4 ページ4
例えるなら、その人は『夜』だろうか。
「えっ……」
髪に触れる黒髪の麗人を目の前に私は唖然するしかなかった。
黒髪の麗人は腰辺りまである私の髪を遊ぶようになぞったり、指に絡めたりしている。
「あの、どちら様で………」
「いやぁ、嬢ちゃんの匂いがとても珍しくてのう、呼ばれてはいなかったんじゃがついつい出てきてしまったんじゃよ」
「驚かせてすまんのう」と申し訳なさそうな笑みを浮かべながら言うその人は、若そうな見た目とは裏腹に老人の様な口調で話し掛けてくる。
ポカンと間抜けな表情をしている私を他所にその人はニコリと綺麗な微笑みを向けてくる。
その美しさについつい見惚れてしまっていると麗人の後ろからお声が掛かる。
「ちょっと、零くん？俺の許可無しに此処に出てこないでって約束したよね？？」
その声の主は眉をひそめて腕を組んでいる羽風さんだった。
「だって、薫くんばっかお話してて我輩退屈なんじゃもん」
羽風さんにそう言われればその人は器用に眉を八の字にしてしょげた表情でそう呟く。
「だっても何もないでしょ…それに、零くんみたいなのが出て来ちゃったらAちゃんがビックリしちゃうに決まってるし…」
はぁ、と溜め息をついている羽風さんにさっきの気まずそうな表情は何処にもなかった。
「まぁまぁ、薫くんが我輩をどう紹介するか迷っておったし様じゃし…」
さっきのしょげた表情とは一転して、少し意地の悪い笑みを浮かべながらそう言うその人はとても楽しそうだった。
因みに羽風さんは言われたことが図星だったらしく、ギクッと効果音がなりそうなぐらい表情と動きを固まらせてて面白かったっていうのは、私だけの秘密だ。
「我輩の自己紹介は早い方が良いじゃろう…？薫くん？｣
「はいはい、零くんの言う通りですね〜」
「全く…」と羽風さんの態度に少々呆れ気味のその人は私の手を取ると言った。
「我輩は少々訳あって薫くんに匿ってもらっておる吸血鬼でのう、名は朔間零というんじゃが…」
………え？きゅうけつき？？
唐突に出てきた突拍子もないその単語を一生懸命頭の中で処理しようとするが、思い浮かぶのは平仮名と疑問符ばかり。
「今日から此処に身を置くことになった故、宜しく頼むぞい、嬢ちゃんや」
……はい？今なんと？？
今の私は目の前の吸血鬼と名乗るその人をポカンと見つめることしか出来なかったのだ。
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作者名：miya | 作成日時：2021年1月14日 23時
