あの日から一度も ページ1
｢誰にも言わないから、もう近寄らないで｣
｢しかし…｣
｢もう片方の人みたいに給料だけもらって日本でのんびり生活してれば良いでしょ！｣
｢なっ…！？｣
｢誰も本当に私なんか好きじゃないんだから！！｣
それは紛れもない、今までで一番の本心だった
泣きながら、八つ当たりでもするようにお嬢様は怒った
何がここまでお嬢様を怒らせるきっかけになったのか、悔しいが分からない
＿＿＿＿＿＿
｢(あの日から自分の名前はタマになった)｣
小学生のような発想だ
あまりにも直球すぎて、周りは気づいていないようだが
｢タマくん！一緒に入ろ〜！風邪ひいたら大変だもんね…♪｣
｢…｣
｢来週お給料もらえるから、それまでマフラー待っててね〜♪｣
｢(お嬢様の大切な資金を自分なんかに…！)｣
首を振っても、ご機嫌そうにお嬢様はにこにこしていた
｢あっ、ありがとう！えへへ…なんかこうしてるのなつい〜♪｣
｢(自分も同じことを考えていたな…)｣
あの日の後、雨で濡れていた自分にお嬢様は傘を差してくれた
その時に約束をしたんだ
もう二度と、同じ過ちは繰り返さない
｢でも、身長差ありすぎるのも困りものだよね〜…｣
｢(はっ！お嬢様が…！！)｣
｢い、いやいや、しゃがみながら歩くとかきついでしょ〜！？｣
｢(お嬢様を雪からお守りするにはマスクを用意しなければ…)｣
｢聞いてる！？なんか上の空になってない！？｣
あの日から一度も、直接言葉を交わしていない
交わさずとも、お嬢様は自分の考えていることを理解してくれた
｢(あの時お嬢様がお怒りになった理由も、きっとこういう事だったんだろう)｣
｢ねえってば〜！ごめんってば！足筋肉痛になるよ〜？｣
｢(優しいこの人らしい、怒り方だ…)｣
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作者名：なな | 作成日時：2024年3月23日 17時
