嘘つきの私と最後の一年六時間目 (ページ11)

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演劇の時間ページ11

「復讐者の目って、何となく分かるのよね」

台本に沿って台詞を口にする練習風景や小道具作成に勤しむ皆を横に台本のチェックを行っているのを止めて机越しの狭間さんからの声に顔を上げる

私の視線を気にも留めず小道具の作成に取りかかる数人の生徒を見る狭間さんに感心しつつ持っていた鉛筆をくるりと回す

『すごいね、私には分からないや』

「嘘」

魔女みたいな髪型が揺れて深い闇を象った瞳が細められ此方を見やる

「人の感情に敏いあんたが知らない筈がないでしょ。ましてや自分の事を」

『ええー…?私がその復讐者だって言いたいの?』

「片方はそうだと思ってる。もう一人は本性を隠してるのか誰かまでは知らないけど」

『………』

E組の闇と呼ばれるだけの事はある。この教室に隠された闇を狭間さんはそれとなく汲んでいるみたいだ

(薄々感じてたけど…私はすぐには復讐者だとは気づかなかったなあ)

もう一人の復讐者、反芻しながら彼女の姿を探して視界に捉える
人は見かけによらない。ってね

「それであんたは誰に復讐するつもり?白状するなら特別に助言でもしてやるわよ」

『だから復讐はしないって。けど、それくらいの想いはある』

興味深くへぇ…と返す狭間さんに鉛筆回しが飽きたので鉛筆を手渡す

ノートの隅につらつらと呪術を鉛筆で走らせる狭間さんはここ最近一番楽しそうだ

「それにしても、あんたが自分の考えを曝け出すなんて珍しいじゃない」

『いつも言ってるよ?』

「言葉巧みに自分が言っているように見せかけて本心を口にしたことはない。違う?」

狭間さんに気付かれている辺り、私もまだまだだということか
曖昧に笑ってみせれば溜め息が落とされる

『いやあ。正直、もう良いかなってね』

「…それって」

『だって私…』

「狭間ー。ここの言い回しもう少し言いやすく変えてくれよ」

村松くんの呼び出しに眉間を寄せて狭間さんが私を一瞥する
タイミングが良いのは私のせいじゃないでしょ

「あれ、取り込み中だったか」

『だいじょーぶだよ。ほら、行かないと』

送り出すように手を振れば意味ありげに私を見てから狭間さんが席を立つ
腹いせか三村くんの足を踏んでるのは目の錯覚じゃない

『…もう此処には居られないんだよなあ』

書き残された呪術全てに罰印を付けてから最後のページにメモを残す

どうせ復讐するなら呪いに頼るよりも自分の手で成し得た方がよっぽど気が晴れるだろうに