みえないモノをみる。 【文スト】

白虎と相対＿＿漆 ページ19

ＮＯside


『君。名前は？』



凛は敦に向かって訊ねた。



「な、中島敦です」

『敦……敦ね』



凛は口の中で何度か復唱する。そして唐突に敦をピッと指さした。



『あっくん』

「……へ？」



次に谷崎。



『潤君』

「……え」



最後にナオミ。



『ナオミちゃん』

「……は、はい」



そして満足気に頷いた。国木田と太宰は「また……」というように頭を抱えた。

凛は笑顔で云った。



『これから宜しくね、あっくん潤君ナオミちゃん！』



敦はカチンと固まり、谷崎は彼女の笑顔に一瞬見蕩れ、ナオミは……流石と云うべきか、すぐに笑顔になり「宜しくお願いしますわ、凛さん！」と手を差し出した。










それから何やかんやと騒いだ皆だったが、国木田が「そう云えば谷崎、何か云いたい事があると云っていなかったか？」と問うた事で止まった。

谷崎は敦に改めて向き直り、バッと机に手を突き頭を下げた。



「すンませんでしたッ！」



全く訳が判らない凛。

凛がしつこく国木田に訊ねると、どうやら入社試験なる物を行ったらしい。──まあ、それからの話は割愛しよう。

皆の前職中て、遂に国木田の番が来た。



「うーん、お役人さん？」



太宰に国木田の前職を訊ねられた敦は首を捻り乍ら答えた。凛が『ブフォッ！』と飲んでいた紅茶を吹き出した。目の前に居た太宰はそれを顔面に掛けられた。



「汚ッ！ 何してくれるの!?」

『ぶふッ、ああ、すまん……残念だねあっくん、独歩は元数学の先生だ』



敦が微妙な顔で頷いた。彼の脳裏に生徒に怒鳴りつける国木田の姿が思い浮かぶ。……絶対に云わないでおこう。



「じゃ私は？」

「太宰さんは……」



敦が言葉に詰まった。

敦が様々な職業を云う。無論掠りも中っていない。



『じゃあ、私は？ 一応現職あるけど、前職』



凛が云った。太宰以外の人間が凛を見た。

敦は改めて凛を見た。


容姿は太宰と同じ程、または太宰以上の整った顔立ち。肩より少しある髪のおかげで女性に見えるが、口調と相まって髪が短かったら男性に見えるかもしれない。

髪はひたすらに白く、右耳の近くに一房黒い髪があるのが余計に目立つ。瞳は不思議な事に、光の加減によって金やベージュ色になった。


愉快そうに笑う顔からは何の意図も糸口も見つからない。



ただ一つ、何処か後悔するように細められた目だけが敦は気になった。

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