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49話 ページ50

屋台を一通りくぐった私達の足はライブの時からすでに限界を超えていて
わたしは小さい声で弱音を吐いた

「…足、痛ってー」

その言葉を聞き逃さなかった彼は「そうだよね、少しどっか座ろうか」と口にして

少し離れた公園のベンチに2人で腰掛けた

ベンチは少し小さくて
2人で座るとカバンも横に置けないサイズ
それゆえに2人の距離も近くなり
私は少し恥ずかしい気持ちになった


「はいこれ、Aの分」

彼がそう言って差し出したお好み焼きにお礼を言って箸を受け取る

輪ゴムを外すと弾けるように開いたこのプラスチックの容器に夏を感じる

香ばしいいい香りが鼻をくすぐって、わたしは少し大きな声で「いただきまーす」と声を上げた

お祭りのお好み焼きはすごく特別で
家で食べるお好み焼きとは少し違う家庭の味が疲れた体に染み込んでいくようだった


「美味しい」

「ん、美味しいね」


男の人と2人きりなんて大人の人以外でほぼ初めてで
わたしは何を話せばいいかわからず、あっさりお好み焼きを食べ終えてしまった

「ね、A」

ただの休憩を堪能している中沈黙を破った彼の声は少し低く何かを考えている声で

その声に返事をしたと同時に少し口の中が乾いて行くのを感じた

「俺、すごい幸せ」

彼は珍しく照れているのか、少し遠くを見ていてわたしとは目が合わず

そんな彼の言葉に、私は「良かった」としか言えなかった

「Aは?」

突然彼が口にした言葉は真剣で
私は小さく喉を鳴らす

「…私―――」


その瞬間に不意に鼓膜を大きな音が揺さぶって真剣な彼の目が明るく照らされた

花火が何時から始まるのか知らなかった私たちは2人で小さく声を上げた


わたしも、幸せ


そう口にしようとしたけれど
やっぱり勇気が出なくて

幸せなはずの私の心は何故かその言葉を発そうとする私の口を開かせてくれなかった


彼はもう私の彼氏で
周りから見たらカップルで
手を繋いでも名前を呼んでもそれが当たり前で

もう何もなかった友達に戻ることはできない

やっぱりこの選択は間違っていたのだろうか

もし、真ちゃんが私たちが付き合ったことを知ったら


…そう思った瞬間に胸がとてつもなく締め付けられて

私は花火が上がる中
影に隠すように下を向いた


それに気がついた彼の手が優しく私の頭を撫でて
わたしがゆっくりと顔をあげると

影で隠された彼の顔がゆっくりと私に近づいて



唇が重なる、そう思った瞬間

花火が上がり彼の真剣な顔が照らされた

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M - 安定の面白さ。黄瀬じゃないのに、、、今まで緑間普通だと思ってたのに、、、今日、りんさんが書いてくれる緑間に惚れましたw更新頑張ってください! (2020年12月6日 14時) (レス) id: 5e52fa6283 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りん | 作成日時:2020年12月6日 10時

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