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93話 ページ44

音楽室の一番近くの階段を少し軽快なリズムを鳴らしながら駆け降りて
その間も諦めずコールを続ける携帯電話



人生ではじめての感覚に背中を押されているようだ

そう、この間のバレンタインの時と同じ

これが恋なのか、愛なのか
そんなことはわからないけれど


きっと今動かなかったら後悔する

そう本能が俺に訴えているようだった


「…っはぁ、」


冷たく耳を貫く電話のコールが回数を重ねていき
俺は静かにスマホを耳から離す


俺が通ったことで淡く照らし出された廊下がやけに心に沁みて
俺はまた静かに下を向いた



胸が、苦しい


なんで、鉄の心を持っていた俺が

こんなにも、…こんなにも苦しいのだろう


自分が学生時代にこんな経験をしたことがなかった俺は、この気持ちをどう処理したらいいかわからない

少し汗ばんだおでこを少し腕まくりしたロングTシャツでぬぐい上げた時だった



『…もしもし』


俺が諦めたはずのスマホからAの声が聞こえて

俺は咄嗟にスマホを耳に当てる


「A、…今どこにいるのだよ」



突然のことでいつもより少し声が張り気味になった俺が質問をしても、彼女は口を結んだまま開く様子がない


「帰ったのか」



今から、車ででも会いに行ってやろうか

今までの俺なら考えられないそんな言葉が頭の中をよぎって
俺は止めていた足をまた荒々しく動かし始めた


「ふふ、…走ったの?」


電話口から聞こえたはずの声が何故か重なって聞こえて
俺はゆっくりと顔を上げながら振り返る

「体育館に見に行ったのに…バスケ部、もう解散したって聞いたし」


足を動かすのに夢中で気がつかなかったが
どうやらここは俺のテリトリー、理科室前だったようだ

夜の学校という色っぽい雰囲気の照明が入学式の時よりはるかに成長した少女を照らし出す


「緑間先生に会えないなら、帰ろーって思ったんだけど」


そこには、ドアの前で体育座りで顔を埋めたAが小さくなっていた

彼女の手にはスマホがあり、俺との通話中の画面のまま青白く柔らかい髪の毛に反射している


「…やっぱ、ちゃんと挨拶しないと帰れないなって思ってさ」


彼女はどれくらいの時間ここにいたのだろうか

俺は探していた彼女に会えたことで余計に苦しくなる心臓に、思考回路を蝕まれていた

「…A、」



彼女の存在を確かめるようにだんだん近づく俺に、彼女は気づいているのかいないのか

顔を上げようとしない



「…」

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りん(プロフ) - ぱなおさん» メッセージいただいたら書くしかねぇ!ってなりました!この小説はサクッと終わる予定なのでサクッと書きますね笑最後までお楽しみいただけたら嬉しいです! (2021年4月5日 9時) (レス) id: 6b9a318112 (このIDを非表示/違反報告)
ぱなお(プロフ) - りんさん» わー!!返信嬉しいです、更新もありがとうございます( ; ; )いつまでも待ち続けますので無理せずに更新してくださいね!!( ; ; ) (2021年4月5日 0時) (レス) id: a37a5acae8 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - ぱなおさん» ぱなおさんありがとうございます( ; ; )最近リアルが鬼忙しくて投稿が滞っておりますが、終わる気はさらさらありませんので頑張って書きます!!これからもよろしくお願いします( ; ; ) (2021年4月4日 10時) (レス) id: 6b9a318112 (このIDを非表示/違反報告)
ぱなお(プロフ) - 最高すぎて一気読みしました!!続き待ってます( ; ; ) (2021年4月4日 1時) (レス) id: a37a5acae8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りん | 作成日時:2021年3月4日 11時

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