懺悔２ ページ46
『おかあさん！きょう、ようちえんでね。』
『おかあさん、ほら！おっきいとんぼつかまえた！』
聞こえてくるのは、幼い頃の自分の声。
思い出されるのは、優しく笑いかけてくれる母。
記憶の中の母の笑顔さえ見ていられなくて、雅紀は頭を振る。
その声や姿が、懐かしいのかよく解らない。
母の笑顔が信じられなくなっていた。
その穏やかな顔の裏にあるのは、喜びではなく怒りや哀しみだと思っているから…。
雅「…俺、生まれなければ良かったね…」
そしたら、家族皆を振り回すこともなかったのに…。
それは、祖父母の話を聞いた、あの晩からずっと思い続けていること。
静かに立ち上がり、そのまま振り返りもせずに雅紀は家を出た。
雅紀が出て暫く後、静寂が再び戻った家に、珍しくまた音がたつ。
翔「雅紀！？」
慌てて靴を脱ぎ、家の中に入る翔。
智は玄関で立ち止まり、床を見つめた。
智「…靴がない。」
ぼそっと呟いた声は、翔が弟の名を呼ぶ声にかき消される。
家中のありとあらゆる部屋を全て確認した後、翔が玄関に戻ってきた。
翔「どうしよう！？雅紀がいない！！」
智「…やっぱり。」
翔「やっぱりって、どういうこと？」
智「だって、あるのは翔くんの靴だけだもん。」
そこで初めて翔が、その事に気が付いた。
翔「もっと早く言ってよ！」
智「…おいら、ちゃんと言ったのに。叫びまくって聞いてくれなかったのは、翔君でしょう？」
翔「そ、そそそそれは、不可抗力だよ！」
噛みすぎと思ったが、智は口に出さずにいた。
雅紀がここにいたのは、間違いない。
証拠はないが、確信はある。
智には、変な自信があった。
しかし、それはこういうときに発揮される。
翔「…ったく…どこ行ったんだ？」
靴を履きながら考えるが、一向に浮かばない。
しかし、智はさっさと車に戻ってしまった。
翔「智君もう行くの？」
智「うん、ほら。泣き虫な弟を向かえに行かなきゃ。」
早く！といわんばかりに、運転席のドアを開けた。
翔は、戸締りを確認し、車に乗り込む。
翔「…で、次はどこ？」
智「ん？雅紀が好きな場所。」
翔「好きな場所？」
智「そう。例えば小さい頃一緒に遊んだ公園とか。…まぁ、雅紀に追いつければだけどね？」
その言葉に、翔はアクセルを踏み込んだ。
弟の運転に、智は苦笑いした。
智「…翔君。雅紀大好きなのは解るけどさ…安全運転でお願いね？」
翔「大丈夫！」
翔の自信はどこから来るのか…。
智は、少しだけ不安になった。
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作成日時：2013年1月31日 23時
