夕焼け小焼け【緑さんメイン】 (ページ45)

今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:518,348 hit

懺悔１ページ45

その夜から、雅紀は「いい子」になった。

我が儘を言わない。
泣いて困らせない。

そして、体調が悪くても言わない。

それは、母親が家にいない理由を、自分のせいだと責めた、幼い雅紀の罪悪感。
そして、死に際の母の隣で、熱に浮かされながら言ったことからも、智は雅紀が未だに自分を責めているのを悟っていた。
母の死から五年が経った今でも、きっとそれは残っている。
そんな雅紀が、自分達に黙って向かった場所。

智「…いて欲しいような、ほしくないような…。」

ぼそっと呟いた声に、翔が一瞬怪訝な顔を向けたが、智は窓の外の雨を見つめたまま何も言わなかった。

雅紀は、家にいる。
誰もいない、静かな家。
夕陽が沈みかけ、さきほどまで明るかったリビングも、今は影を落としている。

ここは、五年前まで両親と自分達兄弟が住んでいた家。
小さい頃の思い出が詰まっているここで、雅紀は一人膝を抱えて座り込んでいた。

落ちる涙は、今も無い。

夕餉の時間だろうか。
近所の家から、楽しい声が聞こえてくる。
雅紀は、膝に埋めていた顔を上げる。
そのまま、顔だけをキッチンへ向けた。

『きょうのごはん、なぁに～？』
『雅紀が大好きな、唐揚げよ。』
『やった～！』

そこに見えるのは、幼い頃の自分と母の影。
小学校に上がる前の年に、父の海外出張についていくようになった母。
だからか、兄弟との記憶はたくさんあっても、両親との記憶は雅紀には殆どなかった。
だけど、下の双子も同じだろう。

そして、それは未だに雅紀を苦しめている。

自分がもっと元気だったら…
風邪なんて、ひかなかったら…
和也と潤は、もっと母ちゃんと一緒にいられたはずなのに…
智兄と翔ちゃんだって、家でお店やらなくても済んだはずなのに…

ごめん。
俺のせいだ…

雅「…母ちゃん…ごめんなさい…。」

その声に応える者は、誰もいない。