夕焼け小焼け【緑さんメイン】 (ページ40)

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冒険５ページ40

早朝の電車は、人もまばら。
罪悪感と期待感が入り混じった複雑な想いで、雅紀は携帯を弄っていた。
メールの宛先は、従兄の昌宏だ。

メールを打ちながら、一ヶ月前従兄に相談したことを思い出していた。

『条件は二つ。一つは、出発までに必ず病院に行って、医者の許可を貰って来い。ちょっとでも医者が渋ったら、その時点でこの計画はキャンセルだ。もう一つは、その日の夕方になったら、俺が智達に話をすること。』
『え？何で？』
『何でって、お前なぁ…。』

呆れた口調から一変して、真剣な顔つきになる。

『あいつらに、心配かけるつもりか？ただでさえ、何も言わずに行くつもりなのに？良い年して子ども扱いもないだろうが、智も翔もきっと徹夜してリビングで待つぞ？そして、翌朝双子達を家に残して、捜索に出るだろうよ。…そんなこと、させたいのか？』
『…ごめん、兄ちゃん。お願いします。』
『ん、任せておけ！』

雅紀はずっと考えていた。
きっと旅行に行くって言えば、智は笑って許してくれたに違いない。
翔だって、過保護過ぎる程心配してくれるだろうけど、でも結局は許可してくれるに違いなかった。
和也と潤は、自分達も行くと騒ぎまくるだろうけど、それでも、兄達に従うだろう。

それでも、誰にも行き先を告げずに家を出てきた。
言わなかったんじゃない、言えなかったのだ。
それは、従兄の昌宏にも話してはいない。
言ったら、留められていただろう。

『電車に乗りました。兄ちゃん、後はお願いします。最後の我侭聞いてくれて、ありがとう。』

送信ボタンを押すと、携帯を閉じてポケットにしまう。
膝に乗せていたカバンをギュッと抱きしめた雅紀は、電車の心地良い揺れに負け、そのまま眠りについた。

電車を一度乗り継ぎ、ようやく目的地に着いたのは、お昼前。
駅を出て、思い切り背伸びをした。

観光地ではないからか、駅も小さく、目の前に広がるのはどこにでもあるような商店街だった。

雅「…何か、ちょっと変わったかな？」

その表情は、少しの寂しさと懐かしさが見えた。
カバンを背負いなおし、雅紀は商店街と逆の方向に足を向ける。

駅から少し離れると、閑静な住宅街に入る。
夏休みだからか、あちこちから子ども達の声が聞こえた。

真夏の日差しが、容赦なく降り注ぐ。
雅紀は帽子を被りなおし、少し重い足取りで歩を進めた。