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「ねぇ、聞いた？貴子さん、嫁ぐそうよ。」
学校に着くなり、話題は名門華族に嫁ぐらしい貴子さんのことで持ちきりだった。
「へぇ、またいい所に嫁ぐのね。」
「Aさんも、羨ましいわよねぇ。」
いや、そんなことはない。
どうせ嫁ぐと言っても、顔は写真で見ただけの相手。話したこともない相手。性格なんて知りもしない。
嫁いでから、とんでもない相手だと分かることもしばしば。
でも、
「そうね、羨ましくてしょうがないわ。」
偽りだって大切なんだ。
静かに目を瞑ると、周りの音が遠ざかるようだった。
瞼の裏の黒を見つめていると、京治が浮かんだ。
京治は私のことどう思っているのかしら。
多少は好いてくれているかしら、それともただのお嬢さんとしか思っていないのかしら。
自分で考えて、自分で苦しくなった。
もう、こんな想い捨ててさっさと嫁いだらいいのかもしれない。
嫁いだ先が優しい人だったら、京治のことも忘れられるだろうか。
一人物思いに浸っていると、授業開始の鐘がなった。
目に浮かんでいた京治は、目を開けるとともにぱっと泡のように消えた。
今日は早く帰ろう。
そして、京治から借りた本を早く読もう。
早く読み終わって、感想を言おう。
結局、京治ばっかりだ。
ーー
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作者名：晴 | 作成日時：2016年1月16日 22時
