tune.39 ページ39
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放課後になると、レオさんが教室の扉からひょこっと顔を覗かせ、私を見つけるとぶんぶん手を振った。
「行くか!」
「待ってください、せめて着替えませんか」
ただでさえ夢ノ咲学院の制服は目立つというのに、このオレンジ色の髪に整った顔面を見れば気づく人は気づくだろう。
「うーん、じゃあ一回おれんちに帰って、それからおまえの家まで行くか」
「いや、私はその辺の店で調達してきます。落ち合う場所だけ決めましょう」
「わかった! おまえに任せる!」
「え? いや、レオ先輩が私を連れ回すものだと思ってたんですが」
「違うぞ?」
詳しく話を聞いてみたところ、どうやら私が好きなところに好きなように動くのをレオさんが観察するだけのようだ。観察されるのは些か緊張するが、彼が望んでいるのは自然体の私だ。‥‥自然体って努力して繕うものだっただろうか。
まぁいいか、と溜息を1つついて頭を切り替える。月永レオという人間といる時は、状況に流されるのが一番楽なのである。
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「取り敢えず、海に来てみましたけど」
「寒いな!」
「‥‥ですね」
冬の潮風は馬鹿にならない。ぶるりと身体を震わせつつ、マフラーに口元を埋めた。
波打ち際から少し離れた位置に腰を下ろす。寒いものは寒いが、夕日がとても綺麗だったのだ。普段廃墟や近界民の残骸の山を見慣れていると、こういう風景は新鮮に映った。
「Aは夕日が好きなのか」
半人分隙間を空けて、隣にレオさんが胡座をかいた。
彼の問いかけに、うーん、と唸る。
「特別に、好き‥‥というわけではないですけど」
海と夕日の組み合わせは、比較的ありきたりかもしれない。けれど、普段ボーダーの戦闘員として暮らしていると、どうしても三門市から出ることは難しい。
あそこは近界民の脅威を除けば暮らしやすい街だが、同じ風景だとやはり新鮮味がなくなるというものだ。
だから、こうして市外に出ると、三門市では見られない風景を見たくなる。
そんな感じのことをそれとなく伝えると、何かが降りてきたらしくノートを取り出して音符を書き連ね始めた。
横でペンが紙面を滑る音を聞きながら、橙の空を眺める。
ふと、彼の髪色をじっと見詰めた。
「‥‥? 何だ?」
「───レオ先輩の髪は、夕日の色ですね」
彼はぱちくりと目を瞬かせ、ペンを持った手で自らのオレンジに触れた。
「‥‥ふ、はは、そうだな」
そう優しく笑った顔に、どきりと心臓が鳴ったのは、秘密だ。
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夏向(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます。めちゃくちゃ原動力になります!! (2021年5月16日 22時) (レス) id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - れいゆふさん» ありがとうございます。そういったコメントを頂けると作者冥利に尽きます…!! (2021年5月16日 22時) (レス) id: d3650b90b8 (このIDを非表示/違反報告)
りん - とても面白かったです!続きがとても楽しみです! (2021年5月16日 15時) (レス) id: 5a0e3d3105 (このIDを非表示/違反報告)
れいゆふ(プロフ) - めっちゃ好きです!更新楽しみにしております! (2021年5月12日 3時) (レス) id: e48528e707 (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - 星宙*°さん» ありがとうございます。感想めちゃくちゃ嬉しいです…!のんびり更新の上どこまで続くかわかりませんが、最後までお付き合い頂ければ幸いです^^ (2021年5月11日 22時) (レス) id: fd39a6918d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2021年3月31日 16時