異空間 ページ34
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「A〜、入るぞ‥‥ウワッ」
彼女の部屋の扉を叩き、中へ入る。が、広がっていた光景に思わず声が出た。
壁一面に貼り付けられたコピー用紙。そこには手書きで色々書いてあり、マルで強調されていたり、矢印でマインドマップみたくそれらが繋がっていたり。
そんなコピー用紙に囲まれて立っているAと、その足元に積まれた本たち。タイトルを見ると、「なぜ少年は殺人を犯したのか」「犯罪心理学の手引き」「カラーで学ぶ人体解剖学」、その他多数。そうそうたる顔ぶれである。
「‥‥太刀川さんが言ってたやつ、これかよ」
「人の部屋見て悲鳴あげた挙げ句、ドン引きしないでくれる?」
「‥‥おまえなぁ、何してんだよ‥‥」
「役作りだよ、役作り」
彼女の演技は憑依型だが、その前に必ずその役の背景や心理を深く理解しようとする。今回のコレもそうなのだろう。しかしここまでしているのを見るのは初めてのことだ。
「‥‥おまえ、その本買ってるところ太刀川さんに見られてんぞ」
「えぇ、嘘」
「嘘じゃねーよ。諏訪さんに口止めされたらしいけど」
「諏訪さん?
‥‥あー‥‥そーいうことかぁ」
首を傾げると、Aは今日あったことを手短に話した。つまり諏訪さんは太刀川さんから話を聞いて、彼女のことが心配になったのだろう。
「通販とか使えよ。だからこんな あらぬところで誤解生むんだろ」
「本はちゃんと現物見て買うって決めてるの。口コミだけじゃわからないから」
「じゃあせめて分割で買えよ‥‥」
深々とため息をつくと、うるさいなと文句が飛んでくる。「それで、何か用?」
「‥‥太刀川さんに、Aが昨日話してたこと言ってみたらさ。ちょっと役に立ちそうなこと言ってたから」
「‥‥へぇ、太刀川さんが? 興味ある」
彼女は床に積んである本を端へ押しやって、座れと言うように床を叩いた。
解剖学の本の表紙の、皮膚がなく筋肉に覆われた人間のイラストと目が合って、そっと視線を逸らしながら叩かれた場所へ腰を下ろす。
Aはおれの話をじっと黙って聞いていた。終わってから、すいと視線を自身の膝から壁へとやって、ぶつぶつ何かを呟いている。
「‥‥A?」
「‥‥‥、‥‥あぁ、うん。ごめん。
ありがとう。太刀川さんにもお礼言っといて」
「おぉ」
話も終わったため、じゃーな、と部屋をあとにする。
去り際に見えた彼女の横顔と、小さく言葉を紡ぎ続ける唇。
それらがなぜか、漠然とした不安を生んだ。
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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時