検索窓
今日:4 hit、昨日:10 hit、合計:40,019 hit

異空間 ページ34

·


「A〜、入るぞ‥‥ウワッ」

彼女の部屋の扉を叩き、中へ入る。が、広がっていた光景に思わず声が出た。

壁一面に貼り付けられたコピー用紙。そこには手書きで色々書いてあり、マルで強調されていたり、矢印でマインドマップみたくそれらが繋がっていたり。

そんなコピー用紙に囲まれて立っているAと、その足元に積まれた本たち。タイトルを見ると、「なぜ少年は殺人を犯したのか」「犯罪心理学の手引き」「カラーで学ぶ人体解剖学」、その他多数。そうそうたる顔ぶれである。

「‥‥太刀川さんが言ってたやつ、これかよ」


「人の部屋見て悲鳴あげた挙げ句、ドン引きしないでくれる?」

「‥‥おまえなぁ、何してんだよ‥‥」

「役作りだよ、役作り」

彼女の演技は憑依型だが、その前に必ずその役の背景や心理を深く理解しようとする。今回のコレもそうなのだろう。しかしここまでしているのを見るのは初めてのことだ。

「‥‥おまえ、その本買ってるところ太刀川さんに見られてんぞ」

「えぇ、嘘」

「嘘じゃねーよ。諏訪さんに口止めされたらしいけど」

「諏訪さん?
‥‥あー‥‥そーいうことかぁ」

首を傾げると、Aは今日あったことを手短に話した。つまり諏訪さんは太刀川さんから話を聞いて、彼女のことが心配になったのだろう。

「通販とか使えよ。だからこんな あらぬところで誤解生むんだろ」

「本はちゃんと現物見て買うって決めてるの。口コミだけじゃわからないから」

「じゃあせめて分割で買えよ‥‥」

深々とため息をつくと、うるさいなと文句が飛んでくる。「それで、何か用?」

「‥‥太刀川さんに、Aが昨日話してたこと言ってみたらさ。ちょっと役に立ちそうなこと言ってたから」

「‥‥へぇ、太刀川さんが? 興味ある」

彼女は床に積んである本を端へ押しやって、座れと言うように床を叩いた。
解剖学の本の表紙の、皮膚がなく筋肉に覆われた人間のイラストと目が合って、そっと視線を逸らしながら叩かれた場所へ腰を下ろす。


Aはおれの話をじっと黙って聞いていた。終わってから、すいと視線を自身の膝から壁へとやって、ぶつぶつ何かを呟いている。

「‥‥A?」

「‥‥‥、‥‥あぁ、うん。ごめん。
ありがとう。太刀川さんにもお礼言っといて」

「おぉ」

話も終わったため、じゃーな、と部屋をあとにする。
去り際に見えた彼女の横顔と、小さく言葉を紡ぎ続ける唇。


それらがなぜか、漠然とした不安を生んだ。


·

朝日→←当事者



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (114 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
224人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。