歯車 ページ27
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噛み合っていなかった話を整理するとこういうことだ。
まず出水Aはボーダーの非常勤のエンジニアである。副業が許可されている事務所に所属しているが、このことはボーダーとも話し合い世間に公表されていない。ボーダー隊員でも知っている者は僅かで、基本的には機密扱いである。
そして出水Aは、同じく出水の姓を持つ天才射手とは双子であり、それぞれ姉と弟という関係。このことも公表されておらず、知っているのは彼女がエンジニアであることを知っている者だけ。
これらの秘密は徹底的に守られており、出水(姉)か出水(弟)のいずれかが許可した者にのみ伝えられるはずだったのだが、どうも本人達は、三輪隊のほとんどに話してあるため当然俺にも話が伝わっているものだと思っていたらしい。
逆に陽介と太刀川さんは、本人達が話してあるものだと思い、暗黙の了解としてこれまでそのことを特に話題に出すこともなかった。
これらの齟齬によって、同じ高校に通い2年間補習や教室で隣人として過ごしてきたにも関わらず、俺は何も知らずにいたということだ。
「‥‥我ながら滑稽すぎる」
「つか、同じ名字だし もしかして、みたいに思わなかったのか?」
「‥‥出水なんてそんな珍しい名字でもないだろう。同じ学年に同じ名字がいるのだって普通にあることだ」
なんかごめんね、と作業を再開した出水が謝罪した。
「‥‥出水が謝ることじゃない」
「そもそも開発室から出ること自体少ないし、奈良坂と基地内で顔合わせることもないだろ。つーわけで話してなかった出水が悪い」
「‥‥ちょっと待ってください、何が何やら」
「太刀川さんは弟の公平の方が悪いって言ってんだよ。なぁ公平くんよ」
「やめろ、腹をつつくな槍バカ」
じゃれ合う二人を視界の隅で捉えながら頭を整理するが、呼び方が出水で統一されているため整理しながら混乱しそうだった。
「呼び方、区別したら? そっちの方がわかりやすいでしょ」
「‥‥そうだな。とりあえず“A”と呼ばせてもらうことにする」
タイピングの音が止み、何気なく彼女の顔を見下ろすと、さっと目を逸らされた。「‥‥不快だったか」と尋ねると、ふるりと首を横に振った。
「‥‥ちょっと、照れ臭かった、だけ」
その言葉に、じゃれ合っていた陽介が「おまえ、俺が名前で読んだ時はけろっとしてたくせに」と些か不満気に言った。
「米屋は、なんか、違う」
「違うって何だよ、失礼なやつだな」
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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時