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表裏 ページ19

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「───なーんて、偉そうなこと言ってるけど。本当は将来的にマスコミに付け入る隙与えたくないだけなんだけどね」

ころりと口調を変えて、出水は楽しそうに言った。
声のトーンを下げ、まるで内緒話をするかのように少し顔を近づけてきた。心なしか瞳が輝いている気がする。

「奈良坂、今まで私のスキャンダル記事読んだことある?」

「‥‥雑誌とかでは、見たことない、な。ネットは、あんまり追いかけないから知らない」

「でしょ。それなりに気 遣ってるからね。
まぁ、あれよ。マスコミは、そういういかにも“何も後ろめたいことがなさそうな人”がボロ出すのを手ぐすね引いて待ってる訳よ」

「‥‥なんだか楽しそうだな、出水」

「そう見える?
───で、いざ私が引退した時。もし勉強してなくて学歴もそこそこで、再就職先も大したことない場所だったら、なんて記事にされると思う?」

少し考え、これまでコンビニ等で見かけたゴシップ雑誌の表紙にあったような表現を引っ張り出してみる。「‥‥“落ちぶれた元人気女優”?」

「せーかい。
もっと下世話なやつになると、枕がどうのとか、そういう話を嬉々として書き出すわけ」

だから、そんな記事書けないようなところに再就職して、マスコミには最後まで私の「綺麗な部分」だけを書いてもらうの。
そう締めた出水は、シャーペンを手に取って書きかけの計算式の続きを記し始めた。


芸能界という実力主義の世界においては、純粋なだけでは生き残れない。
大衆が見ているのは、清濁併せ呑むような、そんな善とも悪とも言える部分を完璧な人物像で優美に覆い隠した、その表面に過ぎない。
本当に純粋なまま生き残れるのは、ごくごく一部の才能のある者だけだ。出水はそれをわかっている。

ふ、と笑みが漏れた。
純粋で裏表のなさそうな笑顔を振りまくその仮面の下に、随分強かな一面を隠していたようだ。


「───俺は、()の出水の方が好きだ」

「‥‥、えっ」

「いいと思うぞ、人間らしくて」

「‥‥ちょっと奈良坂? それは」

「完璧すぎると逆に人間味がなくて不気味だぞ」

「私が言いたいのはそこじゃないんだけど」

また勘違いされるようなことを‥‥とぶつぶつ言っているが、俺はただ思ったことをそのまま伝えただけである。

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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時

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